散髪屋のフクロ
刃物は人を時折武器となって人を襲う。
でも、刃物には悪意はない。
悪意があるとしたら、それは人の中にあるものだ。
カミカゼは散髪してもらっている。
散髪屋は人の噂がよくたまる。
カミカゼはその噂も拾いに、時折散髪に訪れる。
散髪屋のフクロは、ひげ面の男だ。
煙草のにおいの染み付いた、一見ごつい男。
それでも、一度その手で散髪されればわかる。
何よりも繊細な動きであること。
なによりも、美しいことに関して貪欲なこと。
なよなよしているわけではない。
でも、フクロは人が美しくあることを、とても歓迎している。
そうあって欲しいと、望んでいる。
髪を洗いながら、整えながら、
フクロは他愛もない噂話を話す。
カミカゼはうっかりすると心地よさに聞き流しそうになるが、
相槌を打って、記憶の中に一つ一つ足していく。
噂があるということは、何か出所があるということ。
すべてをつぶして回るのは不可能かもしれない。
でも、住民の不安や、不便であるところは、どうにかしたい。
カミカゼの使命感のようなものがそうさせる。
フクロはわかっているのか、噂話を一つ一つ話していく。
悪鬼サクラの話を、フクロは始める。
磁気にひかれるのか、そういう連中のところにサクラはやってくるという噂。
それはカミカゼも聞いたことがある。
そうしてサクラに当てられた奴らは、武器を使うんだとフクロはいう。
武器。カミカゼも一応概念としては聞いている。
人を傷つけ、殺してしまうこともある道具と聞いている。
殺すということ、それは天狼星の町では、あまりなじみのないものだ。
法に逆らっている、裏や闇、それはあるが、
殺すということは理に背いている。
武器がすべてに背いているわけではないと、カミカゼも理解しているが、
どうも、サクラに当てられると、武器も悪になるらしい。
フクロは刃物を使う。
髪を切ったりするから当然だ。
悪ってものは、悪意というものは、
刃物や武器の中にあるものじゃない。
それはみんな人の中にある。そう、フクロは語る。
カミカゼはそれでも安心してフクロに刃物を預けられる。
フクロは強いと、カミカゼは感じている。
普通でいられる強さを、フクロは持っている。
カミカゼはそう感じている。