よどみの声


チャイの電装脳は、日増しに何かを受け取っている。
電波が悪いのだろうか。
チャイはそう思い、部屋の窓から出ているアンテナを、
ちょくちょく電波技師に調整させた。
その度に、問題はないといわれる。
チャイはそれ以上何もいえない。
電気街中心の老頭が、不安を持っていてはいけない。
クロックとタケトリにも感じさせてはいけない。
なにより、電装脳だということを感づかせてはいけない。
この電装脳はまず違法だから、そこからしてチャイは矛盾を抱えている。
でも、町のためとチャイは思い直そうとする。

『本当にそれだけかい?』

よどみの中からの声がする。
いつもの、最近よく聞く、あの、声。
男とも女とも、何ともつかない声。
それはチャイに電装脳では感じられない感覚をもたらす。
それは、押し殺していた不安や焦燥、計算できない感覚。
この声は、電装脳に直接語りかけているんだと理解するまでに、
チャイにしては恐ろしく時間がかかった。
いつもの感覚ではない。そして、あっていい感覚ではない。
よどみからの声は、笑ったような声を出した。

『あんたは矛盾を抱えている。矛盾だらけだ』

チャイはそれを認めようとして、一度思考を停止させて、
声を否定する。
すべては町のためだと。
町のすべての人のために、チャイは脳を売ったと。

『脳のないあんたは、何を考えているんだい?』

町のため、それだけだとチャイは答える。
よどみの声は、興味を持ったようだった。

『あんたは理に反している。サクラと一緒だ』

サクラ。その名前をチャイは良く知っている。
理に反した悪鬼サクラ。
それとチャイは一緒だという。
この声はサクラの声なのだろうか。
悪の誘いにしては、距離を確かめながら近づいてきているようだ。

『町のためなら理に反してもいいのかい?』
声はたずねる。
おそらくサクラの声が
チャイは答える。
チャイの唯一の答えを。

しばらくあんたのそばにいるよと、声は言う。
チャイは静かな気持ちでそれを受け入れた。


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