ゼニ少年
銭屋のゼニ少年は、帳面を見る。
ゼニ少年は、くりっくりの小坊主といった少年だ。
隙のない雰囲気をまとっていて、
そのくせ、愛嬌は十分に。
銭屋という仕事上、どうしてもそうなるものかなと、
ゼニは思う。
銭屋はみんなの金銭を動かしている。
預かったり、払ったり、
ゼニはあまりやりたくないけれど、金貸しもしている。
それで天狼星の町が動くならしょうがないなと思いつつ、
ゼニは金銭を扱っている。
無論、ゼニ一人で動かしているわけではないが、
お客の元まで出張するのは、
大体、ゼニだ。
ゼニは次のお客の元まで歩く。
天狼星の町は、とにかく住宅が密集して伸びたような町なので、
人の流れが基本的にはめちゃめちゃだ。
それでもぶつからずに歩く術を持っているのは、
やっぱり、慣れというものもあるかもしれない。
磁転車が駆け抜けていく。
最近助手を雇ったというウゲツだろうか。
ゼニは声をかけようかと思ったが、
なんだか忙しそうだ。
それなのに、なんだか一瞬見たウゲツは幸せそうでもある。
ウゲツはゼニを華麗にかわして、
磁転車に少女を乗せたまま走り去る。
あれがウゲツの雇ったって女の子か、と、ゼニは思う。
ああ、だからちょっと幸せそうなのか。
忙しいのに幸せっていうのは、そういうことかと。
ゼニは通りに一人取り残される。
ゼニは一人でずっと銭屋の営業をやってきた。
これからもそうなのかなと思う。
一人も案外気楽でいいものだよと思うが、
幸せそうなウゲツに、その言葉はきっと届かないだろうなと思う。
嫉妬とかいう言葉は、正直よくわからない。
ただ、ウゲツがちょっと遠くに行くような予感。
この天狼星の町もそこそこ大きいけれど、
それとはなんだか別に、ウゲツがどこか遠くにいってしまうような予感。
なんでだろう。
ゼニは金銭の流れをある程度見ることはできるけれど、
こんな予感を持ったのは初めてだ。
ウゲツと、とても仲がいいわけでもない。
住人と同じように、金銭の取引をするだけだ。
限りある電気のもと、数字は限りなく流れていく。
ごみごみした通りの中、ゼニは一人だった。