傭兵カタナ
ウゲツは出先の部屋で、その噂を聞いた。
ネココは仕事の邪魔になるからと、部屋の主と話をしている。
その際に聞いたものだ。
この町が取り壊されるという、噂。
その噂を決定的にしたのは、ハンマーが報告したことによってだという。
そして、ウゲツはよくわからないが、
昔この町をあとにしていったはずだという、オトギという者が、
逃げるなら逃げろと、猶予をやると。
そのような意味のことを言ったらしい。
「オトギ?」
ネココもオトギを知らないのか、聞き返す。
「そう、オトギ。知っているのかい?」
「……わからない」
ネココは答える。
磁気を掃除して、
ウゲツはとりあえず電気街中心に向かう。
町はざわついている。
「悩んでいるどころじゃなくなっちゃったな」
ウゲツは磁転車を駆りながらつぶやく。
「悩んでたの?」
荷台からネココがたずねる。
「うん、いろいろ」
まさかネココを養うために、違法なものに手を出そうとしていたということは、
言わない方がいいだろうとウゲツも思う。
うやむやになってしまったのならそれがいいし、
ネココをお嫁さんにしようなんて、かなり本気で考えていたことも黙っておく。
ウゲツはため息をひとつ。
さて、どうしたものだろう。
配線を器用によけながら、ウゲツは磁転車を運転して、
電気街中心にやってくる。カミカゼが忙しく走っていった。
ウゲツは磁気を金に換金しようと、いつもの窓口に行く。
見慣れない人がいた。
「傭兵というものは雇っていないか」
その人はそんなことを言っていた。
窓口の人は、ようへい、というものがよくわかっていないらしい。
見慣れない装束をまとった男の人は、説明しようとしている。
「この町のために戦う。武器を持って。命をかけて」
「それは、ええと……」
「見返りはもらう。しかし、雇われている限りは裏切らない」
「それが、ようへいですか」
「そうだ、上に掛け合ってくれ。傭兵志望がここにいると」
「ええと、一応お名前を……」
「カタナ、という」
「わかりました」
窓口の人は席をはずす。上に伝えに行くのだろう。
命をかける。
カタナと名乗ったこの人は、何なのだろうとウゲツは思い、
ネココはウゲツの後ろで怖いものを見るような目をしていた。