ソロバンの大冒険
構築屋のソロバンは、
中心から頼まれた、構築式を編んでいる。
ギムレットの電装のオウムガイというものにぶち込むらしい。
ソロバンは、設計図だけは見た。
現物は見ていない。
めんどくさいから部屋から出ていないだけだ。
でも、ギムレットとソロバンは、それだけで通じる。
小さなずれが命取りの電装と構築式の間で、
不思議なほど彼等には、ずれが起きない。
かぶりものをかぶったまま、
ソロバンは構築式の見直しをする。
画面を流れていくそれは、
ほぼ完璧といってもいい。
ただ、未知の情報を全部網羅できたかというと、それはわからない。
わからないから未知だと、思い返して、ちょっとおかしくなる。
そんな基本的なものも忘れるほど、没頭していたのかと、
そんなに夢中になっていたのかと。
構築式は、理(ことわり)だ。
ソロバンはそう信じている。
ソロバンなりに、動かすことができないもの、理であるというもの。
ある種の、よりどころにすべきもの。
だから、不確定要素の多い、今回の構築式は、
ソロバンにとっての大冒険だ。
大冒険。
ソロバンは考える。
構築式の言葉で編まれた世界の、
ソロバンの大冒険。
それは同時にギムレットのオウムガイの大冒険でもあり、
あるいは、オウムガイに乗る者の大冒険でもある。
ソロバンは高揚する。
この天狼星の町で、空も知らないままなのかと思っていたけれど、
冒険は何も外に出るばかりではないと。
未知は山ほどある。
道が山ほどあるように。
「そら」
ソロバンはつぶやく。
そこには大きなミノカサゴというものが飛んでいて、
小さなオウムガイが突っ込んでいくはずだ。
ソロバンの想像力を駆使しても、
情報が少なすぎて、その像は、構築式の言葉の羅列に変わってしまう。
ソロバンの想像力のもと、
構築式が踊っている。
完璧を作りたい。
これこそがソロバンの真の理であると、
見たこともない空に投げても、遜色ないものにしたいと。
ソロバンは全力で構築式を楽しむ。
楽しむ。愉快。
芽生えるその感覚に、ソロバンは流されることを選んだ。