あきらめない
オウムガイは空をゆっくり落下していく。
ウゲツとネココを乗せて。
落下速度は徐々に上がっていく。
どうすれば、どうすれば。
出力はなかなか上がらない。
ここに電気があるものか。
ウゲツ自分で否定して、悔しくなった。
何か手はないか。
このまま落ちて終わりは嫌だし、
何よりもネココを失いたくない。
ネココ、あたたかい、ウゲツの背にいるもの。
何か手はないか、この空に、何か可能性がないか。
可能性があるのなら、何にでも賭けてみたかった。
「ウゲツ」
ネココがぎゅうとウゲツにしがみついたまま、ささやく。
「あきらめないで」
ウゲツはうなずく。
それだけで伝わるだろうか。
この高度を落ちていく果てに、ひどい末路があるとしても、
ウゲツはあきらめたくない。
泣きたくなるほど、あきらめたくない。
何度もオウムガイを動かすべく、手を尽くす。
オウムガイは落ちていくばかりだ。
悪態をつきたくなる。
ギムレットのようにバカヤロウと。
それをきっかけにして、ウゲツの記憶が走り出す。
走り出した記憶は、天狼星の町のみんなを描き出す。
ネココを磁転車の後ろに乗せて、
走り回った記憶。
あたたかい記憶。
あたたかいネココ。
あきらめきれるほど大人じゃない。
運命をつかみとったその果てがひどいものだとしても、
それをすべて受け入れて、あきらめられるほど大人ではない。
町には、あきらめる大人はいなかった。
それを見てウゲツは育った。
泣いて喚いて叫んでも、
理想に近づきたくて、もがき続ける、
そう、子供のような町だった。
天狼星の町は、たぶん、国から見ればまともな町じゃないんだ。
後先を考えない町なんだ。
町に帰りたいとウゲツは思った。
ネココとともに、あの、懐かしい町へ。
「大丈夫だよ」
ネココがささやく。
「もうすぐ、くる」
ネココは確信している。
ウゲツは訊ねようとする。
何がくるのか、それはいいものなのか。
「誰かが解放の合図をすれば、間違いなく。くる」
ネココのような、そうでないような。
だから、ウゲツは訊ねそびれてしまう。
そしてオウムガイは落下している。
速度を少しずつ増しながら、確実に落下している。