空を飛ぶオウムガイに、
爆音を立てて電気が届く。
オウムガイは電気を巻き取り、最後の力を振り絞る。
落下する速度はなかなか遅くならない。
ウゲツは出力を上げる。
音を立てては沈黙する。
気休め程度に速度が落ちる。
オウムガイ自体が、限界なのだろうと、ウゲツは感じる。
ウゲツの知識にはないが、即興で作ったようなものが、
外から電気を巻き取ってこれだけ動けるのも、すごいのかもしれない。
ウゲツは出力を上げる。
奇跡の真っ只中に己があることを知らずに。

「ウゲツ」
ウゲツの背のネココが、言葉をかけてくる。
「もうすぐ朝だよ」
ウゲツは少しだけあたたかい光を感じる。
ずっとずっと向こう、地平線から新しい光がやってくる。
朝なんて、太陽なんて、
感じなくても一日は始まっていた。
でも、朝が来る前のこの高揚感。
光がやってくる前の、静寂。
新しい何かが始まる感じ。

空は刻々と色彩を変え、
灰色の大地を、そして、天狼星の町を照らす。
太陽の光は、当たり前の奇跡のように、
朝をつれてくる。

「ウゲツ、花が咲いてる」
ネココは言う。
灰色の台地に咲く、可憐な花。
それは、天狼星の町の天辺、
住人が寝床や衣類や、その他もろもろのものを集めた、
おかしな花。
底抜けに優しい花。

オウムガイが高度をゆっくり下げる。
朝を引き連れて少年と少女は帰還する。
寝床の花の只中に彼らは着陸して、
もこもことした中に、彼らは放り出される。
オウムガイは爆発音を小さくして沈黙。
空を光が染めていく。

ウゲツとネココは、花の中にいる。
空を見れば、戦艦ミノカサゴが小さくどこかへ飛んでいく。
「ネココ」
ウゲツは呼びかける。
「うん?」
「おかえり、ネココ」
「ただいま、ウゲツ」
二人、微笑みあう。

あたたかい気持ちが伝わっていくのを感じる。
健全さとはちょっと違うけれど、
ただ、とてもあたたかい。
そして、眠い。
ちょうどここには寝床がある。

それは電波の関与しない深い眠り。
天狼星の町は、疲れて眠る住民を抱え、静かな朝を迎えていた。


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