マーヤの町
ネジとサイカは車を降りて、
先ほどの大柄の男のところへ戻る。
細い道を歩く。
ネジはあたりを見る。
霧も森も入ってこない。
よくわからないが、崖に囲まれていて、
ここだけ、ぽっかりとあいているのだろう。
扉以外から入るのは、すごく難しそうだと思わせた。
それくらい、高い崖に囲まれている。
男は、先ほどの場所で待っていた。
「すまないね、旅人さん」
「いえ」
「とにかくマーヤの町へようこそだ」
大柄の男は、にかっと笑った。
「俺はここの番人をしている」
「番人さんですか」
「歯車で制御してもいいんだけどな、ここはそういうところがまだ古いんだ」
「古いんですか」
「下手に歯車に頼るより、人間の感覚を信じたいとな」
「へぇ…」
ネジは感心する。
喜びの歯車だけに頼らないのも、
またひとつの手段に思われた。
「ザニ一家の話は知っているかい?」
番人が話題を変えてる。
「ざに?」
ネジはそんなもの聞いたことがない。
「召喚師の一族だよ。中央からここに派遣されて、代々マーヤを守っているんだ」
「面白そうですね」
「この町には、小さな書物庫がある。そこにいろいろ書かれているらしい」
「図書館みたいなものですか?」
「それほど大きくないよ」
番人は笑った。
「まぁ、宿がひとつあるから、そこに泊まるといい」
「はい、ありがとうございます」
ネジはぺこりと頭を下げる。
サイカもうなずき、歩き出す。
町の中を歩く。
さすがに山の中、魚は干したものだなぁなどとネジは思う。
野菜はある程度新鮮に見える。
この町で作っているのかもしれない。
特産物とか、おいしいものってなんだろう。
さっきの番人の人に聞けばよかったなぁ。
ネジはきょろきょろしながら歩く。
「あれ」
ネジは立ち止まる。
「どうした」
サイカが立ち止まる。
「ここは何のお店かな」
外からではわからないお店をネジは見つけた。
そっと覗き込む。
「ここは本屋だな、かなりマニアックな」
「マニアックなの?」
「ちょっと覗いてみるか」
「うん」
サイカが中に入る。
ネジも続いた。
ネジは本の並んでいる棚を見る。
召喚に関してのほうが山ほどだ。
五級から、初心者のための本とか、
登録召喚大全とか、
ピンからキリまでそろっている。
「さすがザニ一家のお膝元だな」
サイカがつぶやく。
召喚師の一族の町だからこんなにそろえがいいんだろうか。
「はいはい、お客さんかね」
店の奥から、おばあさんが出てくる。
「旅のものです。たまたま面白そうだったもので」
「そうかいそうかい」
ネジが答えると、
おばあさんは、うれしそうにうなずいた。
「何かほしいのはあったかい?」
「いや…ああ、地図がほしいと思っていた」
サイカが思い出す。
「地図かい。ここは召喚一筋だからねぇ」
「だろうな」
「新聞師のところにいくといいかもしれないよ」
おばあさんが教えてくれる。
「中央からさまざまの地図を送ってくれるらしいよ」
「ふむ」
サイカがうなずく。
ネジは手放しですごいなと思う。
新聞師は思ったよりいろんなことをするらしい。
「あんたらは召喚の本は要らないかい?」
「間に合っている」
「そうかい、興味がわいたらまたおいで」
二人は本屋をあとにすると、
新聞師の店を目指した。
新聞師の店は、それほど遠くないところにあった。
小さな店を出している。
こんなに山の中でも新聞師はいるらしい。
サイカが店の扉を開ける。
ネジが覗き込む。
「すみませーん」
ネジが声をかける。
反応はない。
しんと静まり返っている。
「お留守かな?」
「鍵くらいかけていいだろうに」
不意に、後ろに気配。
「あの」
気弱そうな青年がおどおどと立っている。
「あの、御用ですか?」
「新聞師さんに用がありまして」
「僕が新聞師です。何の御用でしょう」
おどおどした新聞師が、答えた。