ヒカリムシの森
僕はクロネコ。
そういう名前の少年だ。
格好が黒ばかりだから、
いつしかクロネコって呼ばれるようになった。
別に荷物はお運びしないよ。
僕は、家から少しばかり森の中に入って、
ヒカリムシのいる辺りでぼんやりしている。
森は鬱蒼と緑で、
ヒカリムシはほわほわとちっちゃな黄金をともしている。
ヒカリムシは、光で考えていることがわかるんだって。
それはヒカリムシ同士だからかな。
そして光は、愛を語るものなんだって。
クロネコの僕は、一体どうやって愛とか何とかを語るものなんだろう。
それは難しいのかな。
想像つかないことから察するに、
とっても難しいことなんだろう。
僕がぼんやりヒカリムシを見ていると、
森の奥から、走る音がする。
足音が早い。
僕は立ち上がる。
森の奥のほうから、一人の女の子。
全力疾走してきて、
ヒカリムシをあっちこっちにびっくりさせて逃がして、
木の根っこに足を引っ掛けて転んだ。
「だ、大丈夫?」
僕は芸術的に転んだ女の子に近づく。
「平気。…いたっ!」
「痛いのは平気ではないと思うよ」
「平気。もっと走らなくちゃ」
「どこに行くの?」
「時間までに探さなくちゃいけないものがあるの」
「それでも、休まなくちゃ。無理はよくないよ」
僕が散々女の子にそんなことを言うものだから、
女の子が僕のほうを、ようやく見た。
なんてきれいな瞳だろう。
最初の感想がまずはそれ。
「なに?」
「いや、その」
「時間までに、探さないと。のんびりなんてしていられないのよ」
女の子は悔しそうに。
なんか、そんな顔って損してるなぁ。
「僕も手伝えるかな?」
気がついたら僕は、女の子にそんな提案をしていた。
「手伝っても、何も報酬ないわよ」
「いいんだ」
「変なやつ。まぁいいわ。私はサカナっていうの」
「僕はクロネコ」
僕らの回りにヒカリムシがほわほわよってくる。
「これはヒカリムシって言うんだよ。びっくりすると逃げちゃうけど」
「ふぅん…」
「サカナは何を探しているの?」
サカナは答える。
「愛というものを、時間内に探さないといけないの」
「あい」
僕は、ヒカリムシの愛の伝え方を説明しようとしたけど、
サカナは走り出してしまっていて、
僕も、どこかにある愛を見つけられるなら、それも面白いと思った。
サカナに追いついて、一緒になって、走る。
ヒカリムシが、見送るように光っている。