赤い箱
僕らは、森の中を走る。
たまにはつまづき、たまには休んで、
僕らのスピードで森の中を走る。
僕らは、箱のたくさんあるところへやってきた。
いろいろな箱が転がっている。
サカナも僕も、首を傾げるほど、箱だらけだ。
「プレゼント…?」
「違うと思うなぁ」
「何かしら、この箱。たくさんたくさん」
「おやおや、だれだい」
しわがれた声がかかる。
「そらばこをいじらないでおくれ」
「そらばこ?」
僕が聞き返すと、
ちっちゃな老人が、箱の陰から顔を出した。
「この箱の中には、空の成分が詰まっているのだよ」
「空の?」
サカナが聞き返す。
「ここは、空の成分を入れ替えているところなのだよ」
「雨も?風も?」
「そう、それも箱に詰まっているんだよ」
「愛はあるのかしら?」
「愛?お嬢さん、愛が空にあるとお思いかい?」
「ないの?」
「空には、いろいろなものはあるよ。けれど、愛は」
「…ないの?」
残念そうに、サカナは繰り返す。
「愛は、空と大地の間にあるものだよ」
「間に?」
「きっと見つけられるよ。お嬢さん」
ちっちゃな老人は、笑う。
「空の成分はね、上のほうに微笑の成分があるんだ」
「それじゃ、上に飛んで行けばいいの?鳥は幸せなの?」
「いや、そこに至るまでに、濃くなった涙の成分もあるんだ」
「涙も?」
サカナは残念そうに。
「あんたらは成長して、背が高くなって、微笑みも涙も感じるだろう」
老人は言う。
「そうして、上ばかりでなく、地に足をついている自分に気がつき」
「気がつき?」
「その自分にいつしか、愛がついてきているのも気がつくものさ」
「愛ってついてくるものなの!?」
サカナは今知ってびっくりしたようだ。
僕もそんなことは知らなかったけれど。
「さぁさ、そろそろ赤い空の箱を開けるよ。ここいらは夕焼けだ」
「赤い箱の成分って、どんなものです?」
僕は尋ねる。
「手をつなぎたくなるものさ」
老人はそう答えて、箱をあける。
赤い夕焼けがいつしか空いっぱいに。
僕らは、手をつないで森をまた、走る。