白のあなた


よぉ。俺はトビウオ。
町の学校に通ってる、学生様だ。
そっちでは、なんていうんだっけ?
えーっと、はいすくーる?
まぁ、よくわからない。うん。わからない。
わからなくても俺は学生で、
日々悠々と生きている。
特に何もなかったんだ。
それでも。このトビウオ様が、
人生変わった出来事があってな、
俺はそれを話したくてしょうがない。
でも、秘密にもしたいんだ。

話せって?
わかった。俺も男だ。

ある日の学校帰りに、
子供がわいわいやってるんで、
俺も混じって、ちょっとした曲芸披露してたんだ。
ほら、ストリートでピエロがやるようなあれとか。
俺、笑ってもらうのは好きだからさ。
お調子者のトビウオなんて、学校では言われてる。
お調子者は褒め言葉さ。
軽い手品と、曲芸と。決してシャープになれない話術と。
話術はまだ勉強中なんだ。
笑ってもらうためにどうしていいか、
バカやればいいとしか、まだよくわかんなくてさ。
それだけじゃだめなことも、わかっててさ。

ああ、それで、俺が曲芸披露して、
とぼけた顔してミスしたら、みんなが笑ったわけだよ。
俺様はお調子者だからな、そういうのがまず普通さ。
でも、その日だけ、違っててさ。
俺さ、バカだと言われるのは慣れてるけど、
これだけは否定して欲しくない。

俺は、みんなの中に、たった一人の天使を見たんだ。

白い人で、飛び切りの美人で、
俺はその人に釘付けになった。
上の空で曲芸がめちゃくちゃになった。
それなりにドジやったように見えたらしくて、みんなは笑った。
俺は、この際、道化になりきることにした。
「そこの白い美人のお嬢様!」
俺は美人の天使に呼びかけた。
「あなたの笑顔で俺は空も飛べます!」
白い美人はよくわかっていない風だったけれど、
俺はかまわず歩み寄った。
軽い手品で、造花をひとつ。
彼女にささげ、
「お名前を、せめて教えてください」
「…シロネコ」
白く澄んだ声。
「ではシロネコのお嬢さん、一世一代のトビウオの曲芸!」
俺は、まだ成功したことのない曲芸に挑戦する。
そして、大失敗して尻餅をつく。

みんな笑ってる。
シロネコのあの人は、もう、いなかった。


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