オレンジの夕焼け
シロネコさんは、
たまに、俺の曲芸を見に来てくれるようになった。
来てくれては、不思議そうに見ている。
俺は、目があったら、わざとらしくウインク。
シロネコさんはキョトンとしているけれど、
俺も、精一杯勇気を振り絞ってるんだ。
こら。そこ、この程度で?とか笑わない。
まぁ、俺も自覚はしている。
まずは、ちゃんとお話しよう。
今度の夕方にシロネコさんがいたら、
俺は何かお話のきっかけを作ろう。
俺は決めた。
お調子者で道化だけど、決めたことは守る。
俺のポリシーだけど、知ってるやつって悲しいほど少ないんだ。
夕日がきれいなある日。
俺は曲芸を終えて、人がある程度去っていった。
町がオレンジ色に染まっている。
そのオレンジ色の街角に、
俺と、シロネコさんが、ぽつんと残った。
「あ、あの」
俺は、何か言わなくちゃと、つたない話術をフル回転させようとする。
最初の時は、多分奇跡が起きたんだなぁと、頭の端っこで考える。
「きれいですね」
俺がようやく話せたのがこれ。
「ええ、夕日がきれいですね、トビウオ」
シロネコさんが、夕日をじっと見ている。
俺はその横顔をじっと見ている。
やっぱり好きなんだなぁと自覚する以外は、
俺とシロネコさんが一緒にいるこの時間が奇跡のようで。
ああ、奇跡って結構起きるものだなぁと思う。
「俺、いつか飛びますよ」
俺はポツリとそんなことを言った。
シロネコさんが俺のほうを向く。
「あなたの笑顔で、俺はいつか飛びます」
シロネコさんは首をかしげたあと、
「飛べるでしょうか?」
「男には、飛ばなくちゃいけないときがあるんですよ」
「では、どこまで飛べますか?」
シロネコさんは尋ねる。
俺は答える。
「あなたが望むところ、どこへでも」
道化じみた答えでもいい。
ただ、オレンジ色の奇跡のような時間、
俺はシロネコさんとお話を確かにしていて、
俺もシロネコさんも、一緒にオレンジ色のやさしい時間の中にいた。
空がきれいで、あなたがきれいで、
何もかもがきれいで。