セピア色の痛み
この町はとにかく何かにつけて愛を語る。
俺はたまについていけなくなりそうになるけれど、
シロネコさんを見つけてから、
ああ、言葉をうまく使えたら、
俺、一日中でも愛を語れるのになぁと思う。
それほどに、俺はシロネコさんに夢中だった。
愛を語りまくる町の人は、
こういう気持ちなのかなぁと思う。
俺、ちょっとわかった気になっていた。
「トビウオ」
ある日のこと、シロネコさんが俺を呼ぶ。
「なんでしょう?」
「トビウオは好きな人いる?」
直球質問、俺どうすればいいの。
「いますよー。俺、ふざけてるって思われるのが関の山ですけどね」
「ふざけてるの?」
「違う違う。好きな人はたった一人だけ。でも」
「でも?」
「あー、うん、なんだろ」
俺は言葉を探してしまう。
言葉がうまく出てこなくて、
意味のない、うなり声が幾つか。
そのとき、
「すごく好きすぎて、何もできなくなる?」
シロネコさんは、不思議な言葉をつづった。
「んー。そうかもしれないですね。でも、シロネコさんどうして?」
俺は聞いてしまった。
「私も、そういうことあったから」
「…シロネコさんも、そういうことが?」
「うん、昔、好きな人がいて。なにかしてあげたかったの」
自然にシロネコさんはそういった。
俺は、言葉が出てこなかった。
「その人はこの町を出ていった。どこにいるのかわからないの」
「今も、好き、ですか?その、人の、こと」
俺は、尋ねる。
「わからないけど、忘れられない人。何も出来なかったことを悔やむくらいに」
俺は、精一杯、道化の顔を作ろうとした。
「俺、応援しますよ」
笑えているかな、
「その人探しましょうか?俺、結構顔広いんですよ」
「できるの?」
「俺は、笑ってもらうためなら何でもしますよ」
本当は、少し違うのだけど。
「その人と会って、今度こそ、何かしてあげましょうよ!」
俺は、声が震えそうになるのを無理やり隠して、
「シロネコさんの恋を、俺は、応援します!」
道化の俺は宣言した。
胸が悲鳴を上げるって、こういうことだったんだ。