怪談:あかり


ほたるあかりは、どこへ行く。

あかりはいつだって希望のしるし。
あたたかい明かり、トンネルの出口、
いつだって、あかりがある方を目指せば、
それは真実なのだと私は思っている。
星明りは私を導き、
月明かりは、足元をやわらかく照らし、
太陽は、まぶしく命をはぐくむ。

そんな中。
この夏、私はホタルと言う存在を手にした。
ダイオードなんてものとはぜんぜん違う。
私の知るありとあらゆるあかりと違っている。
私の手の中、それは知識の通り、虫で。
そして、やわらかく、ともすれば弱く輝くそれは、
あかりなのだけど、儚げであった。

このあかりは一体、何を導いたり照らしたりするのだろう。

生きるあかり。
私の知らない存在だ。
ホタルは死者の魂が、そうなったと言う話も聞いた。
うろ覚えの話である。
では、今から死ぬあかりなのだろうか。
では、死の世界へと導くあかりなのだろうか。

生きた虫の明かり。
死んだ魂の明かり。
ホタルは甘い水が好きか。
砂糖水かな。
それとも、なんだろう。
この世のものじゃない水が好きかな。

私は暗いところでホタルを追う。
懐中電灯も持たず、
ふらふらと、ほたるあかりを頼りに。
月明かりすらまぶしい。
私はこの明かりで十分です。

ひときわ明るい、たくさんのほたるあかり。
私は迎えられたのかな。
ホタルの好きな甘い水のそこに、
私はやってきたのかな。
時間の感覚もない。
夜はきっと明けない。

ここにたちこめる甘いにおいはなんだろう。
甘い水のにおいだろうか。
ほたるあかりでは、水の正体がよくわからない。
甘いにおいと、きれいな花と。
何もかも朧で。
そう、朧でいいんだ。
甘いにおいの中、死体が腐っているなんて知らないほうがいい。
じきに、私もそうなる。
そして、私はホタルの一部になる。
生きた明かりになる。
ああ、この場所は花がきれいだなぁ。
ホタルがとてもきれいだなぁ。

ずぶずぶ。ずぶずぶ。

ほたるあかりは、どこへいく。
あの子を連れて、坂越えて。


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