螺子ネズミ


夜中。
ネネは時計を見る。
わからないことを追っていたら、夜中だ。
時間が経っているのに気がつくと、
ネネの身体にどっと疲労が来た。
眠い、疲れた、だるい。
ネネは問題集とノートを閉じると、
机に突っ伏した。
このまま寝る気はないが、
しばらく起き上がりたくないとは思った。
眼鏡を外して、しばらく目を閉じる。

ちりりん

何かの音がしたような気がした。
ネネは眼鏡をかけなおし、あたりを見る。
ちりりんなんて音を立てるのは、なんだろう。
見回して、何もないと思い、ネネはまた、机に突っ伏す。

ちりりん

聞こえた。
多分気のせいではない。
ネネはゆっくりと椅子から立ち上がる。
この部屋から音がする。
きっとこの部屋のどこか。
椅子が小さくぎいと鳴り、
部屋はまた、沈黙する。

ちりりんちりりん

聞こえた!
ネネは音の方向を見る。
無駄箱一号と名づけられた、パソコンだ。
ネネは隙間を覗き込む。
壁とパソコンのわずかな隙間に、チラッと何かよぎった。
ネネは手を伸ばす。
隙間にはあまり入らないが、音の主はどこかに逃げたらしい。
部屋の中でちりりんという音が移動する。
ネネは意地になった。
捕まえてやる、と。

ちりりんちりりん

ベッドの下から音がする。
ネネはそこにまた、手を突っ込んだ。
一時収納になっている本などの隙間を縫って、
ネネは奥に手を伸ばす。
何か触った!

ちりりんちりりん

音が近づいて来る。
ネネの腕を何かが伝って来る。
やがて明かりのもと、小さなものが現れた。

ちりりん

それは小さな白い生き物らしいものだった。
ネネは驚いたが、
叫ぶより先に固まってしまった。
白いネズミらしい生き物。
つぶらな瞳で、耳に当たる部分には、愛らしい丸アンテナが二つ。
尻尾に当たる部分には、螺子がひょろりと生えている。
首あたりに小さな鈴がついていて、
首をかしげると、ちりりんと鳴った。

ネネはベッドの下に突っ込んでいた手を引き抜いた。
ネズミはわたわたした後、ネネの足元にぽてと落ちた。
見たことのない生き物のはずだ。
ネネはなんとなく嫌悪はしない。
ネズミは毛並みを整えると、ネネのほうを向いた。

『こんばんはなのです』

頭の中に小さな鈴を転がすような声がした。
ネネはネズミを見る。
ネズミはうなずいた。

『私は螺子ネズミといいますです』

螺子ネズミは、ぺこりとお辞儀をした。
ネネもうなずいた。

『話したいこと、話すべきことはたくさんあります』
『けれど突然話したところで、わからないのです』
『これだけは聞いてください』
『あなたは線を操れる可能性があるのです』

「せん?」
ネネは口に出して螺子ネズミにたずねる。
螺子ネズミはちりりんと首の鈴を鳴らして、うなずいた。
『つなぐ線、区切る線、さまざまの線があるのです』
「そんなこと言われてもわかんない」
ネネはぼそっとつぶやく。
『大丈夫なのです』
『ネネさんはネズミが出てきても順応しているのです』
螺子ネズミは首を傾げて見せる。
それなりにびっくりしたが、なぜかこの状態が普通である気がした。
『きっとさまざまのことが起きても、大丈夫なのです』
「さまざまのことって何」
『さまざまなのですよ』
ネネはその答えに不満だったが、螺子ネズミは続ける。
『つなぐもの区切るもの、自在に操れば、それは力になるかもなのです』
「ちから?」
『パワーなのです』
「なんでまた」
『何でもできる力が眠っているのです。何でもですよ』
ネネは顔をしかめて見せた。
何がなんだかわからない。

螺子ネズミは、ちりりんと鈴を鳴らした。
『とりあえず、ここにお邪魔するのです』
「まぁいいわ、邪魔にならないとこにいてね」
『はいなのです』

ネネは疲れて、そのまま寝た。
おかしなことが起きているとは、ちっとも思っていなかった。


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