学者の研究
技術は数百年のうちに進歩した。
それでも変わらないものがある。
技術者達の、ある種の情熱である。
あきらめずにこつこつと同じことを繰り返し、
そして、新しい発見を喜びとするもの。
人間にはそれがあった。
情熱と進歩は、いつも寄り添うようにそこにあった。
パンダが増殖し、凶暴になって、
白黒の敵は当然のように、
対パンダ担当に技術者を迎え入れた。
科学者も含まれる。遺伝子などを扱う学者もいた。
パンダを滅するにはどうしたらいいか。
情熱は、命を滅ぼす方向で、燃え上がっていった。
そして、ラブパンダもまた、
パンダを強化させるという方向で、
遺伝子操作のとある学者を招いた。
学者はいわゆる狂科学者に近く、
パンダをいじって結果が出ればいいというスタンスだった。
ラブパンダはそれもよしとした。
「パンダはねぇ、強くしなければ滅びてたんですよ」
学者は言う。
「ですから、遺伝子をいじっていじって、今のパンダがあるんですよ」
学者はくるりと振り向き、にたぁと笑う。
「人をいじるのには飽きたんです、これからはパンダをどんどんいじらせてもらいますよ」
学者はうれしそうにステップすら踏みながら、
研究所を歩く。
意味不明の文字列。
薬品の数々、
そして、奥の部屋、
強化ガラスの向こうで寝かしつけられている、
パンダの子ども。
起きても暴れられないように、縛られている。
「今回は特殊細胞を埋め込んでみようか。人間である程度成功したしな」
学者は中空をクリックして、コンピューターに命令を送る。
「なぁに、失敗してもパンダは山ほどいる」
パンダの子どもが目が覚めて、暴れる。
縛られたテープか繊維みたいなものは、
パンダの子どもの力では外れない。
「たかが人、たかがパンダですよ」
時代錯誤した、注射器。
その中に、怪しい液体。
パンダの子どもは恐怖する。
そのとき。
コンピューターが爆発する。
注射器を扱っていた機械が爆発して、がしゃんと落ちる。
研究所の扉が爆発する。
「な、なにごと」
煙がもうもうと立ち上る。
セキュリティの塊だった扉が、
破壊されてばたんと倒れる。
学者の電脳に、ウイルスが走ったのを感じる。
駆除しなければ、
でも、メインのパソコンは爆発した。
一体、一体誰が。
こつ、こつ。
足音が静かに響く。
学者の視界がノイズ交じりになる。
聴覚もどこかおかしい。
「こんにちは」
高いような低いような、男の声。
「あなたはみんなを敵に回した」
「み、みんなだとぅ?」
「そう、みんなですよ。人もパンダも」
「私の技術は…!」
「すべて私のスクリプトで盗ませていただきました」
「お、お前は、誰だ!」
「店長とでも覚えておいてください」
ウイルスで電脳がすべてやられるその瞬間、
学者はパンダ頭の男を見た。