パンダ裁判


隔絶された空間の中、
パンダが戦っている。
戦うために生まれたパンダだ。
野良三毛パンダではない。
生まれたときから戦うことを決められた、
血に飢えたバーサーカーパンダだ。
武器を巧みに使い、
防具をまとい、
その戦い方には、恐ろしいまでにセンスがある。

これは闘鶏のようなものではない。
戦うパンダを見て賭け事をしているわけではない。
では、何をしているのか。
これは裁判なのだ。

検事側の用意したパンダと、
弁護士側の用意したパンダ。
その他もろもろの意見のあるものが用意したパンダ。
それらのパンダは、闘技場のようなところで戦う。
生き残ったパンダの持ち主の意見が通される。
有罪か無罪かは、パンダの手にかかっている。

パンダ裁判。
何かをヒントに作られたらしいが、
何をヒントにしたかは、今では伝わっていない。
ただ、パンダ裁判は何よりも公平な裁判であるとして、
重要な裁判に使われる。
世界の中心であるパンダを使うのは、
この時代の特徴といってもいいかもしれない。

戦うことだけでしか、己を見出せないパンダ。
パンダの戦闘センスは磨かれていく。
人が主義主張を押し通すために、
パンダが血にまみれる。
そうして、狂戦士パンダが闘技場でパンダを殺す。
人はそれを見て喜んだり悲しんだりする。

伝説になっているパンダもいる。
勝ち続けるパンダ。
とある弁護士の雇っているパンダで、
無敗らしいという伝説。
その名をジャスティスという。
ほとんどの狂戦士パンダが赤白黒の三毛であるのに対して、
ジャスティスは、白黒がはっきりしている。
返り血を浴びないわけではないが、
ジャスティスは、返り血を後に残すことはしない。
強い、ただただ強いという伝説。

検事側も強いパンダは準備している。
様々のパンダで、ジャスティスを追い詰める。
それでもジャスティスは勝つ。
己のいる意味がそれだけだと知っているかのように。
パンダは戦闘用に進化している。
ジャスティスは剣を振る。
みねうちにする余裕などない。
生きるために、ジャスティスは強くなった。

裁判の傍聴席という名の、
闘技場の席が埋まるのは、
そんなジャスティスを見に来るものが後を絶たないからだという。
ジャスティスはめったに現れることはない。
だから伝説。
それでも勝つ。
生々しいパンダ同士の戦い。
電脳に取って代わられた、生きるということを、
パンダたちは本能で表現している。

ジャスティスが、
検事側パンダの首をはねた。
返り血が吹き出る。
白黒が決した瞬間だ。

ジャスティスは雄たけびを上げる。
狂わないパンダと、逆転し続ける裁判。
正義のない世界にありったけの激情を乗せて。


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