術師ムダヅカイン
現在と地続き程度の近未来。
世界経済は疲弊しきっていて、
消費は落ち込み、景気はよくなかった。
多分日本に似た、どこかの国のヒーローの話。
その国では、
金の使い方がなっていなかった。
表向きでは、質素倹約と勤勉を推し進めているように見えた。
表向きの話だ。
裏では、人々が節約したその金が、
悪人の手によって湯水のように使われるという、
決してほめられない状態になっていた。
すべては、悪の帝王シッソケンヤークの思うがまま。
その国の権力者も、国民も、
何もかもが、悪い金の流れに流されようとしていた。
これではいけないと立ち上がったのが、
正義の術師ムダヅカインだった。
この国の国民達は、
無駄遣いをする喜びを忘れてしまっている。
節約も喜ばしいことかもしれない。
それでも、と、ムダヅカインは思う。
金というものは回ってこそ力が宿るもの。
もう一度、金を回そうじゃないかと。
そして、この国の民に、
消費と生産の楽しさを教えようじゃないかと。
作るものがいて、それを消費するものがいて、
その間に力が生まれる。
「ゼニー」という力だ。
ゼニーが大きければ、それは何かを動かす力になる。
心だったりする。
物理的な力だって加えられる。
あるいは、ゼニーの力で、
世界まで回るかもしれない。
ムダヅカインは、
ゼニーの力の大きな若者を探す旅に出た。
悪い倹約におかされていない、
純粋なゼニーの力。
金を回して、ゼニーの力で人々の心まで変えられるもの。
ムダヅカインはそれを求めた。
ムダヅカインは旅の間に、
ひとつの構想を練り上げる。
それは、人々に代わって散財し、
人々に消費する喜びを与える戦士たち。
金を回し、世界を回すかもしれない若者達。
ゼニーの勇者。
「…サンザイン」
ムダヅカインはつぶやく。
そう、サンザイン。
いつか出会う若者達にはその名を冠しよう。
ムダヅカインはそう思う。
はたして、ムダヅカインは、
純粋なゼニーの若者に出会えるのか。
まだ見ぬサンザインたちとは。
そして、この国は変わるのか。
物語は始まったばかり。
まだ、始まったばかり。