とある家庭の事情


シノは、化け猫の女性である。
人間にして高校生程度の外見。
目が猫っぽい以外は、尻尾も隠しているし、
この町にとけこんでいる。

この町は、普通の町。
夕方になると騒がしい、商店街なんかあったり、
子供もご老人もいる、住宅街なんかあったり、
公園もそこそこにぎわっているし、
学校なんかも近くにある。
現代の、普通の町。

シノは、その町から、ちょっとだけ郊外の家に暮らしている。
ちょっと大き目らしい家。
周りは、静かだ。

「シノ」
声がかけられた。
兄のアサキだ。
「父さん、今日は戻ってくるといってましたか?」
「しらないよ」
シノは答える。本当に知らないのだ。

アサキはカラスの大きな翼を隠している。
見た目は人間。
やはり、この町にとけこんでいる。

「コトマルでしたら、わかりますかね」
「コトマルは?」
「晩御飯を作ってますよ」
兄弟が静かに会話する。
そして、台所から声がかかる。
「シノさんアサキさん!ごはんですよー!」
台所に向かえば、
小柄な少年が、一生懸命に作った、
おいしそうな晩御飯が並んでいる。

コトマルは、ドラゴンの迷子だったところを、
シノとアサキの父親に拾われ、ここで暮らしている。

おいしい晩御飯に舌鼓を打ち、
会話が弾む。
そこへ、台所から、物音。
「ガロウさん!」
コトマルは駆けていった。
シノとアサキもついていった。

玄関には、
大柄な男がいた。
人狼種族が混じっているらしい、父親の、
ガロウだ。

「よー、コトマル。元気にしてたか?」
「はい!」
コトマルは元気よく答える。
「女のところに行ってなかったんだな」
シノが言えば、
「こっちに来なくちゃいけなかったんだ」
そういい、ガロウが紙切れを一枚渡す。
シノは受け取る。

「仕事だ、お上から、そいつを狩れとさ」

違法ものを狩る、そんな家族。
ギクシャクしているけど、そんな家庭の事情。


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