廃墟に吹く風


石の像はずっとそこにあった。
ここが出来たときも、
ここが繁栄していたときも、
ここが寂れていったときも、
ここが廃れていったときも、
ここが廃墟となったときも。
ずっとそこにあった。

もう、何の像かわからないほどぼろぼろの石の像。
神様の像かもしれない。
仏様の像かもしれない。
美人像だったかもしれない。
悪魔の像だったかもしれない。
それがわからないほどぼろぼろになった、
多分、人型の像。

ここは廃墟。
石の像はそこをずっと見ていた。
元は、庭園だったと聞く。
何かの折に、人がまだいた頃、聞いた話だ。
それからいろいろなものに変わった。
いろいろな人間が通り過ぎていった。
旅館だったかもしれない。
ホテルだったかもしれない。
温泉宿だったかもしれない。
遊戯施設だったかもしれない。
連れ込み宿だったかもしれない。
今は、廃墟だ。
朽ちていくだけだ。

石の像は、風を感じた。
少しだけ、像の表面をなでていった。
これが積み重なり、石の像は正体をなくした。
風、それはまた、時の流れによく似ている。

空が暗くなった。
通り雨があるのかもしれない。
もう、雨宿りすら出来ない施設。
ここは静かに雨にうたれよう。

ざぁざぁと雨が降る。
ぱきりと屋根が一部壊れる。
全てが朽ち果ててしまっても、
石の像はそこにあるだろうか。
そしてその時代の人間は、
石の像を何と見るのだろうか。

石の像は、廃墟を見ている。
いつまでも、見ている。


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