闇鍋


君の世界を閉ざそう。

君が泣くほど、声が聞こえるなら、
君の耳を閉ざそう。
君が泣くほど、物が見えるなら、
君の目を閉ざそう。
君が泣くほど、しゃべりたくないなら、
君の唇を閉ざそう。

僕の手で、君が閉ざされていく。
僕も閉じる。君の手で。
真っ暗の闇に溶けていく。

五感全てを二人で閉ざして、
僕らの世界は閉ざされる。
五感以上に凶悪で原始的な感覚。
二人で一つになりながら、
絶対に拒絶するもの。
優しさが暴れている。
決して溶け合えない塊。

闇に溶けよう。
そこは大きな鍋の中。
僕らはそこに溶けていく。
君はまだ泣いている。
泣いている君を感じるのに、
僕は君をこれ以上閉ざせない。

君の世界を閉ざそう。
この中なら、誰も君を泣かせないから。
安心してとろけておしまい。

君の世界を閉ざそう。
僕の世界も閉ざそう。

二つの塊が、それ以上の塊が、
鍋に放り込まれて、とける。
真っ暗の鍋、それは闇鍋。
得体の知れない感情の塊。

おあついうちに召し上がれ。


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