うつろ
そんなことを言うと、あれがやってくるよ。
それはね、「うつろ」というんだ。
むなしいものなんだ。
むなしいものを愛しちゃいけないよ。
ああ、愛なんてまだわからないか。
え?わかってるって?
だめだめ、そんなことを言い出したら、
「うつろ」が来るよ。
真実を見ようとしない人間に、
「うつろ」がやってくるんだ。
たとえば、存在しないものに恋をしたとか。
心当たりはあるかい?
たとえば、手の届かない人が自分を好きだとか。
心当たりはあるかい?
たとえば、それらと性的に交わりたいとか。
いけないよ。
それは「うつろ」が最も好むものだ。
「うつろ」は妄想と現実の境目の曖昧なものを好む。
そこから脳に入っていって、
充実しているはずの、その妄想を、
どんどん食い散らかしていくんだ。
「うつろ」が食べる。
妄想が欠けたところを再生産する。
「うつろ」が食べる。
えんえん繰り返して、充実することがなくなるんだ。
「うつろ」は「うつろ」を招くようになる。
「うつろ」をもっと招き入れるため、
妄想と現実の境目がもっと曖昧になり、
「うつろ」に妄想を食われるだけの存在に成り果てる。
「うつろ」は弱いからね。
妄想を現実に還元できるやつが苦手なんだ。
簡単だろ、そんなの。
境界を持っているんだ。
ここまでは妄想、ここからが現実。
境界を自力で越えさせる手段を持っているのが一番強い。
それって当たり前じゃないか。
強い境界を、強い力で越えていく。
それができるやつは「うつろ」に負けない。
存在しないものを愛してはいけない。
それは「うつろ」を呼ぶよ。
とても、むなしいものなんだ。