サボテンの町


動力は石炭機関。
人々は少ない電波を拾って、そこで生活している。
不器用に横に太り、
伸びるところは縦に縦に。
石炭の出したすすの所為で、
そこは真っ黒になっている。
縦に伸びていくその町は、
たくさんの人が住んでいる。
集合住宅よりも大きく。
成長し続ける黒い塊。
家々から電波を拾うためのアンテナが、
そこかしこから生えている。

人はそれをサボテンの町と呼ぶ。

そんなサボテンの町に住む、
夫婦がいる。
夫が作業をしている。
アンテナを張っているのだ。
室内は小さな石炭動力でしゅんしゅんしていて、
黒い煙がちゃんと換気のために外に出て行く。
夫はアンテナの具合を確かめている。
健全に育つためには、健全な電波を摂取しないといけない。
毒電波を拾うような位置になっていないだろうか。

「ラジオの具合はどうだい?」
夫がちらちらとアンテナを動かして尋ねる。
「あ、ここ、ここが放送局みたい」
妻がチューニングをおこなう。
「よし、じゃあそれで固定するか」
夫は工具とアンテナで、どうにかアンテナを固定する。

少ない電波を摂取して、
石炭動力で暮らす町。
アンテナというとげを生やして、
サボテンの町はそこにある。
黒い煙を吐いて、
生きている町が、
すすけているけれど、そこにあるのです。


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