鬼の話
鬼さんこちら、手のなるほうへ
手を鳴らせば鬼が来る。
鬼が来たなら、その首はねよう。
いいか、鬼というものは狩るものだ。
あれは化け物だ。
その姿でたぶらかすこともあるという、
魔性のものだ。
決して…
その先は聞かなくてもわかる。
鬼の首をはねるには、鬼が鬼であるだけで十分だ。
少女は鍛錬を重ねる。
身の丈並みの大きな剣を、ぶんと振り回す。
雑念を振り払うように。
まだ幼さの残る、美しいこの少女が、
鬼討伐に駆り出されたのは、
ひとえにその強さがあった。
大の大人が逃げ出したくなるような鬼討伐に、
まだ恋も知らない少女は、進んで身を投じた。
山の奥の奥。
鬼を見つけた討伐隊。
囲んで輪になり、
その首を…
取ろうとしたから、殺された。
この鬼は、圧倒的に強い。
少女は鬼をようやく見ることができた。
出来立ての死体の向こう。
人外の、美しい鬼。
一人ぼっちの、鬼。
少女の心を、一瞬何かがかすめていったが、
背の剣が、少女を引き戻す。
今の感覚が、魔に魅入られたというものか。
たぶらかすというのは、こういうことか。
決して…情をかけてはいけないよ。
そんなもの最初からない。
ない、はず。
この首狩ろう、鬼の首狩ろう。
たった一人の鬼を狩ろう。
少女は、大きな剣を構える。
鬼は面白そうに笑った。
かなわないとわかっていても、
切り殺される未来が見えているとしても、
この鬼に会いに、ここまでやってきた。
情けなんてない。
ただ、胸を焦がしただけ。
緊張が走り、少女が踏み込む。
その首はねよう。
鬼の首はねよう。
鬼さんこちら、剣のなるほうへ。