流れ星の夜
戦場になった町で、
俺達は同じ星空を見ている。
星のよく見える夜だった。
月のない夜だったように思う。
双子の弟は、俺を連れ出して言った。
「流れ星を見ようよ」
「はぁ?」
俺は思いっきりあきれる。
「流れ星は願いをかなえてくれるんだよ」
何を言っているんだこいつはと思った。
星なんて大体、空にちかちかしていて、
願いもへったくれもないものじゃないか。
死者の魂が星になるとか、
星には神様が云々という話も聞く。
俺も神官の端くれだ。
神様を否定するわけじゃない。
でも、それとこれとは別だし、
願いをかなえてくれる星があるのなら、
今頃この世に不満なんぞないだろう。
「兄さんにはロマンがないね」
「そりゃほめ言葉だな」
「ほめてないよ」
「で、どんな星が願いをかなえるって?」
「流れ星。消える前に三回心で唱えるんだ」
何だそれはと思う。
よくもまぁ、ハードル上げたなと思う。
それくらいしないと、ありがたみがないというわけか。
…ばかばかしい。
「あ、光った」
「あん?」
俺は空に尻尾らしいものを認める。
ほんの、一瞬。
あれが消える前に?
と、思う前に尻尾は消えていた。
「あー…消えちゃった」
「大体無理だろ、三回なんて」
「そうかなぁ?」
「無理、だから俺は帰る」
「えー」
「大体、何か願うことがあるのか?お前」
「うーん、平和とか?」
「くっだらねぇ」
「ひどいなぁ」
弟は頬を膨らませる。
本気で平和を願いそうだから、
本気でくだらないと思う。
俺はさっさと帰ろうと、
わめく弟を無視して歩き出す。
ふと、空を見上げる。
(辛い酒でも飲みたい。そんで、寝るか)
その瞬間、光の尻尾が、一筋。
(あ?)
弟は気がついていない。
俺だけだろうか。
かなうなんてことは、ないよなぁ。
ばかばかしいこと、この上ない。
寝泊りしている集会所まで戻ってくると、
入り口で糸目のあいつが、にこにこ笑っていやがった。
(正直こいつは何を考えているかわからない)
「酒、どうっすか?」
まさか、と、俺は思う。
「辛い、のか?」
「いえ、俺好みに甘いやつっす」
そういえばこいつは、そういうやつだった。
「飲みません?」
「いや、ないよりましだ」
「…やけに素直っすね」
「るせぇ」
星だとか、願いだとか、ばかばかしい。
生き残れるかわからないところに、
理想を持ち出す奴がわからない。
飲んだ酒は死ぬほど甘い。
星に願ってかなうなんて、
相当見通し甘いと、
いわれているように甘かった。