夜の虫
へい、あっしが夜町のヤドロクです。
おじさい?なんです、それ?
あっしがそんな風に呼ばれてるって?
なんでもいいですよ、もう。
あっしは、とある方の手となり足となり働いてます。
拾われたっていうんですかね。
とにかく、天国も地獄も見せてくれた方でしてね。
ええ、あっしにとっては生きる理由ってもんです。
神官どもとは違って信心なんてないですけどね、
あっしにとっては、手となり足となること、
それだけでいいんです。
あっしは、とあるギルドにいましてね。
堅気風に言えば、組合ですかね。
仲間?
ぜんぜん違いますね。
組織ってのがしっくりくるかも知れないですね。
あの方を中心とした、組織ですね。
あんたは、夜の歓楽街に来たことはありますかい?
ない?それはそれは。
歓楽街にはね、
獣がうようよしているんですよ。
人が、一皮むければ、
ただのけだものだっていうことを、
よっく証明しているところですよ。
あっしはね、そこを飛び回る虫に過ぎないんですよ。
夜にうごめく、一匹の虫に過ぎないんですよ。
ぶんぶん飛び回って、
獣の逢引をのぞく、
いやらしい虫に過ぎないんですよ。
夜の虫はね、
蜂の手下なんですよ。
わからない?
わからないならそれでもいいです。
とにかくあっしは、一匹の虫のような男なんですよ。
虫にもなんぼかの意地がありますけどね、
それはすべて、あの蜂のために。
あっしは悪いこととは思ってませんよ。
夜の虫に成り下がったと思われそうですけどね、
あっしは夜の虫がしょうにあってるんでさ。
夜の歓楽街は気をつけな。
うごめく獣に混じって、
人でなしに混じって、
虫もぶんぶん飛んでいるよ。
夜の虫はね、あんたらのことを、
じっと見て、あの方に報告するんだ。
夜町のヤドロク、夜の虫。
虫を甘く見ちゃいけませんよ。