おかえし


「おもしろくないな」
ミツキはつぶやいた。

「その酒、まずいのか?」
カズマが尋ねる。
ミツキは酒をあおる。
面白くないくらい、辛口だ。
「久我のアホ、一体どういうつもりだ」
「さぁな、何か意図することがあるんだろうが…」

「ねーねー、似合う?」
「似合う似合う」
アイとアヤがはしゃいでいるのも面白くない。
確かに似合っているのがなおさら面白くない。
ハヤトはどんな顔して装飾品を選んだのだか。
「ねぇ、ミツキ兄ちゃん、似合うかな?」
「あー、似合う似合う」
「…兄ちゃん不機嫌」
「あ、悪い、考え事してた」
「何考えてたの?」
ミツキはとっさにでまかせを言う。

「もらってばっかりじゃ、悪いかなとか」

言ったあとで、思いつく。
何か嫌がるようなことをしてやれと。
もらってばかりじゃ面白くない。
何か超絶、嫌な顔をするようなこと。
「兄ちゃん?」
「…何かお返ししてやらないとなぁ」
「そうだね!ハヤト君にお返ししないとね!」
アヤはぱっと笑顔になり、
ミツキは知識を使って考え始める。
できるだけ、ハヤトが隠しているようなこと、
キンセンカがどうとか言ってなかったか、
あれはなにかあるな、
過去に何かがあったって面してやがった。
ミツキはにやりと笑う。
「よし、キンセンカだ!」
「ハヤト君の言ってたやつ?」
「今なら冬咲きのがあるはずだ、それを中庭にどーんと」
「兄ちゃんすごい!」
「俺の世界知識を馬鹿にするな」
「それじゃ花屋さんだね!」
「橘、天開寺、付き合え」
カズマはめんどくさいなぁという顔をして、
アイは何か面白そうという顔をする。

キンセンカの苗を、一日探し回って見つけた。
中庭にどーんとするには、
冬咲きのキンセンカは少々小さかった。
売っているにしても苗しかない。
苗自体もだいぶくたびれている。
どうにも、嫌な顔をさせるのにはインパクトが足りない気がする。
真ん中にあってはカズマの修練の邪魔になるからと、
隅っこにあるのがよくないのだろうか。
アヤが水をあげている。
いつもどおりの時間が流れる。

「ただいまっす」
いつもの調子で帰ってくるハヤト。
「おかえりー」
と、アヤが出迎えに行く。
「あのね、ハヤト君に見せたいものがあるんだ」
「なんすか?」
「みんなで見つけたんだよ」
「みんなで?」
さぁ、どう出る?

疑問符を飛ばしながら、ハヤトが中庭に入ってくる。
そして、キンセンカを見たときの表情を、
多分忘れることはないだろうと思う。


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