砂の大波
氾濫する波は砂の一粒の集合体。
砂は一粒一粒に何かを宿している。
それが何なのかはわからないが、
砂は確かに、何かを持っていて、
そして、集合して大波を作り上げている。
砂の意識と、砂屋は言う。
砂屋とは、砂を読むものだ。
斜陽街に現在店を出していて、
砂を混じらないようにしたりする、
砂のプロフェッショナルだ。
砂屋は砂の大波の話を聞いて、
真っ先に、意識の暴走を疑った。
砂は一粒では取るに足らないもの、
しかし、集合して意識をいじくれば…砂屋は好まないらしいけれど、
交じり合って混沌を作り出すことも可能だという。
それは、砂の大波となる可能性もあるし、
砂の大波は飲み込む属性を多分に持っている。
何かを壊す属性を多分に持っている。
危険かもしれないですねと、砂屋は結ぶ。
「砂の大波はどういうものでしたか?」
砂屋は問う。
客は答える。
「何かをひっくり返すようでしたよ」
「そうでしようね」
砂屋は編み笠の下で、何かを見るしぐさをした。
「砂を恐れることはないのですよ」
「でも、あんな大波を見たら…」
「砂は人と同じ、砂は書物と同じ」
砂屋は説く。
「無数にあるものすべてと同じものなのです」
「そう…でしょうか」
「そのうち人の大波も起きましょう。それを恐れる必要もありませんよ」
「人の大波?」
「危険ではあります。でも、暴走して初めてひっくり返ることもあります」
恐れることではないかも知れませんねと、砂屋は言う。
砂屋はいつものように、口元を笑みにする。
大波で世界がひっくり返っても、変わらないように。