失いたくない
いつかへとへとに疲れて、
どうしようもなくなったとき、
頼れる人はいるだろうか。
甘えられる人はいるだろうか。
愚痴を聞いてくれる人はいるだろうか。
支えてくれる人はいるだろうか。
どうにも自分が受動的だとは思うけれども、
へとへとに疲れてしまったそのとき、
周りに誰か残ってくれているだろうか。
誰もいなかったらどうしよう。
その気持ちが、いい人というものを、
作り上げているのかもしれない。
いい人であるところの他人を失いたくないし、
また、いい人である自分を失いたくないのだと思う。
どんなにへとへとに疲れても、
自分が疲れていても、
どうしても手を差し伸べてしまうのは、
この手から零れ落ちてしまうのが怖いからなんだろうと思う。
水のように心を潤すそれは、
落ちてしまえばなかなか戻ってこないように思われる。
永遠に戻ってこないのではないか。
知らないうちに零れてしまったものの多さに、
気がついては愕然とする。
疲れた旅人は水を欲する。
誰かの水に、なれているだろうかと、
疲れかけの旅人は思う。