迷子になりに


たまたまやってきたバスに乗り込み、
たまたまやってきた電車に乗り込み、
そしてたまたま、いった先で迷子になった。

ありきたりの寂れた田舎町。
少し、ほんの少しだけ潮のにおいがする。
海が思ったより近いのだろう。
海までいけるだろうか。
海を目指してきたわけではないけれど、
陸の終わりを見るのは、感慨深いかもしれない。

徹底して迷子になることに決めた。
手当たり次第に知らない路地を歩く。
ふと、そこに現れる古臭い看板。
潮の侵食で錆びた看板。

少し大通りは、車が普通に走っているけれど、
大通りはシャッターどころか、
トタンで店を閉めてしまっている。
ポスターは色あせていて、
商店街があるのが不思議だという感覚。

でも、ここは町で。
人が生活をしていて、
昼があり夜があり、間違いなく生活している。

都会にいるばかりが生活ではない。
お魚屋さんのひとつのお店だって、
雑貨屋さんのひとつだって、
この町では身を寄せ合うようにお店があって、
ぎらぎらのお日様のした、
ほろのようなものをたらしたお店。
中に入る勇気はない。
けれど、脈々と続いてきたお店というものが、
町の流れというものが、
ここにはある。

どこからか風鈴の聞こえる、不思議な町。
普通の町。
でも、懐かしい町という経験をしました。


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