暑い夏。
畳の部屋。
気休め程度の空調。
隣室で高校野球。
どこかで風鈴。
蝉の鳴き声のする、昼。

枕を引っ張り出して、畳の上、
仰向け大の字になる。
力を抜く。

目を閉じて想像する。
ゆっくり沈んでいく感じ。
音が遠くに行く感じ。
高校野球も、風鈴も、蝉も、
どんどん離れて、もあもあとくぐもっていく。

ここは水の底だと想像する。
苦しくない水の底。
呼吸をすればそれは泡になって、
上に行って消えてしまう。

魚もいない。
薄明るいけれど暗いような水の底。
手も足も意味を持たない、
ふわふわした空間。

居心地のいいそこで、
自分が疲れていたことに気がつく。
「つかれた」
つぶやいてみる。
「つかれた」「つかれた」「つかれた」
ぽつぽつこぼす言葉は泡になって上に行って消える。
何度も繰り返すと、お腹と頭が楽になるのを感じる。
軽くなっていく感じ。
誰かが答えてくれたり、同情が得られるわけではない。
それでも、泡になって、何かが吐き出されていく。

やがて泡にするのに満足すると、
楽になった身体でまた、ふわふわと、畳の部屋に意識を戻す。

音が戻ってくる。
風鈴がなる。
から元気のような空調。
金属バットのヒットの音。

疲れたことがわかったなら、ちょっと休もうか。
夏の日の、そんなおはなし。


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