あなたは笑う
つらいことが減るといいねと、あなたは笑う。
あなたを否定することが、減るといいねと、あなたは笑う。
みんな同じことを考えればいいのですかと、
私は尋ねる。
あなたは笑う。
そんなことじゃないんだ。
そんなことはあるわけないんだ。
みんな同じなんて退屈。
みんな同じなんて気味が悪い。
みんな違うのが当たり前。
だけどね、つらいことが減るといいなって思っても、
誰が悪くなるわけじゃないから、
だから、そう思うだけなんだ。
あなたは水と風で生きているような人だった。
浮世離れしていて、
きれいに笑う人だった。
野菜だって命だって食べるよ。
あなたはそういって笑う。
口の中には唾液だってあるし、
お風呂に入らなければ汚いし、
とにかく、普通だよとあなたは笑う。
あなたは、空を見上げて、笑いながら言う。
何も知らないけれどね、ただ、誰も傷つけたくないし、
大切な人には、きれいなものだけ見ていてほしいし、
つらいことは、できれば沈めておきたいと思うんだ。
空の底にはつらいものが澱のようにたまる。
ここは空の底。
一番つらい場所。
この場所で、少しでもきれいなものを、
大切な人に感じてもらいたい。
だから、
あなたは、私の方を向いた。
だから、笑うんだよ。
あなたはそういって笑う。
空からつらいものが沈んでくるのだろうか。
あなたがつらくないわけがない。
それでもあなたは笑うのだろうか。
あなたの腕に守られたまま、
つらいことから逃げている私は、
あなたの笑顔に涙する。
つらいことが減るといいね。
あなたはそういって、笑う。