もしものこと


もしもあなたがいろいろ忘れている中に、僕のこともあったら。
そしたら僕は悲しむんだろうか。
喜びはしないと思うな。

あなたは人を蹴落としていく人だ。
たくさんたくさん蹴落としていって、
てっぺんを目指す人だ。
あなたは人を蹴落とすたび、
いろいろ落としていっていることに、
多分気が付いていない。
僕のことも、僕らのことも、
きっと落として忘れてしまっている。

あなたのてっぺんはどこでしょう。
てっぺんは、安らぎがあるのでしょうか。
あなたに、ちゃんとねむってほしいし、
あの日のように穏やかであってほしい。

あの日。
過去のあの日。
僕と双子の弟。
そして、あなたがいた。

三人して穏やかな時間を過ごしていた。
弟がいなくなるまでは。

弟は、見つからなかった。
死んでいるだろうと、口々に大人たちは言っていた。
あなたは怒りに我を忘れて、叫んで暴れた。
それからだった。
あなたが何もかも蹴落として、
上へ上へと目指していくのは。

僕の届かないところにあなたがいる。
あなたは上に行けば、何かが得られると信じているのかな。

ごめんなさい。
弟を隠したのは僕なんだ。
だから、あなたはそんなことをしなくていいんだ。
もしも弟がいなくなったら、
あなたを独り占めできる気がして。
ごめんなさい。

その言葉が届くには、あなたは遠くになりすぎた。

もしも言葉が届いたら。
僕はどうすれば許されるだろう。


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