だから謝らないで
空を目指したのは僕なのだから。
だから、君は謝らないで。
僕は空を選んだのだから、
だから、そんな顔をしないで。
僕は、今、生きる前にも、
空で生きていたような気がする。
前世という言葉なのかもしれないし、
その前世で鳥だったのかもしれないし、
或いは、空で戦っていた何かだったのかもしれない。
幼いころから僕は空を見ていた。
君はいつも隣にいた。
空を見ている僕の隣で、
手を引いてくれたのは君だった。
君は前を見て、下を見て、
僕が転ばないようにしてくれていた。
僕には君がいた。
それでも僕は空を目指した。
人間が空を飛ぶには。
僕は戦闘機乗りを目指した。
空で戦うことが、僕には当たり前のように。
空で戦い、僕は空で死ぬだろうと思った。
それが僕にとっての当り前だと思ったし、
僕の運命だと思った。
僕は戦闘機乗りの試験にもパスして、
出撃の前、君のもとにやってきた。
君は涙の顔で、何度も謝った。
危険なことをさせてごめん、
地上に引き留められなくてごめん、
あとは嗚咽でわからなくなった。
ただ、ごめん、ごめんと繰り返し、
僕は、君を抱きしめるしかできなくなった。
あたたかい。
幼いころ、手を引いていてくれた君は、
こんなに小さく温かい存在だったか。
まるで小鳥のようだ。
僕はこの儚いものを置いていくのか。
後悔が津波のように。
僕は、抱きしめた腕をほどき、
君に背を向ける。
僕の目指した空に、君の場所はないけれど、
いつか、今度は。
二人で空を飛ぼう。
青い青い、本当の空を飛ぼう。
だから謝らないで。
今度二人で飛ぶ約束をしよう。
またね。