君は酒屋に付き合う事にした。
「おおきに。ワイは酒屋の那刃斗(ナハト)っちゅうねん。よろしゅうな」
酒屋はニヤッと笑った。
背の高い、どこからどう見ても酒屋には見えない風体だ。
「実はな、配達も仕事もこれでしまいなんやけどな、店戻っても暇で暇で…せやから、あんさんに暇をつぶしてもらおう思うてな。どや?暇つぶしに、一杯?」
酒屋は懐から720ml瓶を一つ出した。燃えるような赤い液体に金箔が浮いている。
ラベルには『金閣寺』とある。
「これは売りもんじゃないさかい、安心しぃや」
それ以前に、懐からその瓶が出てきた事が疑問だが、酒屋はそれに答えてはくれなかった。
君と酒屋は神屋の店の前でささやかな酒宴を開いた。
その折、酒屋が訊いてきた。
「あんさんは、どないしてこの街にきたん?」
君は夜羽のテープを探している事を告げた。
「夜羽のかぁ…あんさんも厄介なもん頼まれたなぁ…」
少々酔いのまわった酒屋は、同情をしてくれているようだ。
「あいつは自分が動かんで、人を動かす事ばっか考えとる奴やねん。ワイもなぁ…さんざ歩かされたクチやから、あんさんの気持ちはよーっくわかる」
酒屋はバシバシと君の背を叩いた。
「せやけど…神屋はん遅いがな…」
酒屋がそう言った時、君は神屋の奥から何か音が聞こえたような気がした。
神屋の奥に行ってみる