構築式


正体不明の職人がいる。
通称ソロバン。構築屋をしている。
電気の流れは、部品の組み合わせによって決まる。
これは大体基本のことだ。
でも、ソロバンはその部品に構築式をぶち込むことにより、
より繊細な動きをさせることができる。
いわゆる電装には構築式が必須であり、
ソロバンはそれなりに儲かってるようである。

ソロバンの正体は、不明。
身体は普通の身体、多分男。
でも、頭はかぶりものを常にかぶっていて、
何を考えているかわからないし、
どこで構築式なんてものを編み出したのか、
それすらわからない。
でも、ソロバンは構築式を操り、電気街の一角に店を構えている。
謎の男ソロバン。
正体不明の構築屋。
でも、腕は確からしい。

この天狼星の町はこういった、正体不明も数多くいる。
ソロバンなんて店を構えているだけ、まだわけがわかるほうである。
でも、天狼星の町には時折、
何がきっかけで発生したかわからない、
存在の自然発生のようなことがある。
自然発生にしか見えない、存在。
電波や電気、人の流れ、命の営み、
天狼星の町はそれらを内包しつつ、
時折、正体不明の存在を作っている。
生み出しているのかもしれない。
その存在たちは、電鬼(でんき)と呼ばれる。
電鬼は正体不明を総称したものであり、
たいていの場合、理路整然とした構築式をぶち込めば消える。
ソロバンはそのことを知っている。
構築式とは理にのっとって物を動かすこと。
正体不明の電鬼には効果覿面というわけだ。

もし、と、ソロバンは思う。
理にのっとった電鬼が出てきたら、
それはソロバンの役目ではないかもしれないと。
新しい言語でも、理だけは書き換えられない。
電気のあるがように流れる構築式、
ソロバンは当たり前のことをしているだけ。
ただ、構築式の言語が、皆にわかりにくいだけ。

わかってくれるのは、構築式をぶち込まれた存在だけかもしれない。
わかってくれる存在は、消えてしまうのか、言葉がないのかもしれない。
ソロバンはちょっと孤独を感じる。
正体不明に理を。ソロバンのあるべき意味がそれだけだとしても。


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