日常から
ウゲツは天狼星の町の、ある部屋を目指している。
情報は、ごくごく一般的な家庭。ただ、磁界が起きてしまっていて、
一刻も早い掃除が望まれる。
天狼星の町ではよくあることだ。
電気配線や、何かの管や、その他もろもろがウゲツの上を通っている。
天狼星の町の路地の上がみんなそうであるように、
何かが通っていたり、ぶら下がっていたりして、
天井というものは大体低い。
ウゲツは磁転車を走らせる。
やや暗い路地。時々走らせている路地自体がゆがんでいるのか、
ゆらりと揺らぐことがある。
天狼星の町のすべてが規格にのっとっているわけでないので、
規格のずれによる揺らぎもある。
天狼星の町の路地は混沌と。
ウゲツはそういう混沌の中、磁転車を走らせる。
天井から水漏れが少しあったり、
何かの配線が切れていたり、
生活感の塊のようなところを、ウゲツはいく。
ウゲツは迷うこともあまりせずに、目的の部屋にたどり着く。
天狼星の町は大きいが、住人なら大体迷子にはならない。
部屋まで出向いていくような職業なら、
天狼星の町の構造はたいてい頭に入っている。
ウゲツはくすんだ扉の近くの、呼び鈴を鳴らす。
間があり、錠がはずされる音。
「こんにちは、磁気掃除に来ました」
ウゲツは元気に挨拶する。
部屋の住人が顔を出す。
「ああ、中心も話が早いね。早速頼むよ。電波がゆがみがちで困るんだ」
「任せてください」
ウゲツはにっこり微笑む。
仕事は充実していて楽しい。
心からウゲツはそう思う。
ウゲツは部屋に入り、磁界の確認と、
磁気の掃除を滞りなくおこなう。
長い螺子に一時的に磁気を封じて、そのあと、磁転車の動力機に落とす。
あとは、磁気がたまりにくいように、電気の流れを整える。
いつものこと、何も変わらないけど楽しい日々。
仕事を終え、ウゲツは部屋を出る。
感謝の言葉ももらったし、ウゲツとしては上々だ。
磁気を動力機に落とそうと磁転車のあるべきところに行くと、
そこには、一人誰かがいる。
「誰?」
ウゲツは声をかける。
振り向いたそれは少女。
「あたしはネココ」
少女はにっこり微笑んだ。