出会い


ネココと名乗った少女は、
ウゲツの磁転車を興味深く見ていた。
彼女はダボダボした大人物、しかも、男物の衣装を着ている。
「おもしろいねー、これ」
ウゲツがじっと見ているのもかまわず、
ネココという少女は衣装をだぼだぼ言わせながら、
磁転車のあちこちを見ている。
その目はきらきらと輝いている。
「うーん…」
ネココは考え込む。
「あのさ、さわってもいい?」
上目遣いでネココはウゲツにたずねる。
目がすごくきれいだとウゲツは思う。
たずねられたと理解するのに、ちょっと間があり、
「あ、う、うん」
ぼんやりしていたウゲツは、こくこくとうなずいて返す。
ウゲツの内側に何か変わっていくものがあるのを感じる。
ウゲツは何だろうかと考える。
ネココは磁転車に触れようとする。
それはあまりにもきれいな手で、ウゲツは思わず目を見開いた。
どきどきする。
ウゲツは、何も考えなかった。
彼は、何かの反応のように、ネココの手をとっていた。
ただ、きれいな手だと思って、ただ、磁転車にさわって汚したくないと思って、
ただ、なんだか触れたいと思って。
その手を握りたいと思って。

生まれたばかりのようなネココの手はあたたかく、
ウゲツの手の中で抵抗もしない。
ウゲツにぴりぴりと何かが走る。
電気のような、よくわからない何か。
何かが伝わるような、どきどきする何か。

「なぁに?」
ネココはのんびりとたずねる。
「あの、……汚れると思って」
「汚れたら洗えばいいよー」
「汚したくないと思ったから。うん」
ウゲツは無理やり自分を納得させる。
汚したくなかったから、それだけ。
「ふぅん、君はいつもこれ使ってるんでしょ?」
「うん、だけど仕事だから」
「仕事だとこれに触れるんだね」
「そういうことになるかな」
ネココはウゲツの手をそっとほどくと、何か考え出した。
ウゲツの手にまだぬくもり。
何かが変わったような。この少女に触れて、出会ってしまって。
ウゲツの中で何かが変わったような。

「ねぇ」
ネココがたずねる。
「うん?」
「君の名前は?」
「ウゲツ」
「じゃあ、ウゲツ」
ネココはちょっとだけあらたまる。
「ネココを雇ってください」
お願いしますとネココが頭を下げると、首飾りがゆれたのが見えた。


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