問わない言わない
ウゲツは磁転車を駆る。
ネココが動力気の上ではしゃいでいる。
ウゲツはそれを何より心地いいものだと感じ、
また、こういう時間がずっと続けばいいのにとも思う。
だからウゲツは問わない。
ネココが何者なのか。
どこから来てどこに行こうとしているのか。
なぜ磁転車に興味を持ったのか、
なぜそこにいたのか。
ウゲツは問わない。
問うことをしたら、ネココが消えてしまいそうな気がする。
我ながら変なやつだとウゲツは思う。
でも、予感はぬぐいきれない。
ネココがいるこの時間が有限であるような予感。
誰かと一緒にいるというのが、こんなに心地いいものなのに、
それが限られているのではないかという予感。
ずっと続けばいいのに。
ウゲツはそれを願う。
願うのに言えない。
「うーげつ」
ネココが声をかけてくる。
「なに?」
「あのね、ネココはウゲツに雇われてるよね?」
「うん、そうだね」
ウゲツは答える。
「だから、雇い主はウゲツだよね?」
「そういうことになるね」
ウゲツは答える。ネココは考え込む。
「雇い主が許可しないと、やめられないよね?」
「そうかもしれない。……仕事飽きた?」
「んーん」
ネココは否定する。
「ウゲツが言わなければ、ネココはずっとウゲツと一緒かなって」
ウゲツは磁転車を急停止させる。
ネココがウゲツの背にぶつかる。
あたたかい。ウゲツはそれだけを思う。ちょっと痛かったけれども。
「ネココ……」
ウゲツは問おうとする。
何者なのか。
ずっと一緒にいてくれるのか。
でも、それらは言葉に出す前に、ウゲツの喉が閉じ込めてしまう。
「ウゲツ」
ネココはウゲツの後ろで呼びかける。
甘えるように、いつものきれいな声で。
「ネココはネココ。ウゲツが雇ってます」
「…うん」
「邪魔だったら、解雇しても、いいんだよ?」
ネココのその言葉には、少しだけ怯えが含まれている。
「大丈夫。ネココのこと大事だから」
「でも」
「大丈夫」
ウゲツは繰り返す。
ネココに諭すように、自分に言い聞かせるように。
問わないけれど、言わないけれど、
ネココが何者であっても、大事だと。
ウゲツの中ではそれが真実のひとつ。