大きな相手
ウゲツはネココを乗せて、磁転車を駆る。
いつものように。
ウゲツはちょっとぼんやりしがちではあるけれど、
おおむね、いつものように。
次の部屋を目指していると、呼び止められた。
カミカゼだ。
「ウゲツ君、ちょっといいか?」
カミカゼは少しだけ迫力がある。
カガミとはまた違った、何か使命を背負っている感じ。
「はい、何でしょうか?」
ウゲツは素直に磁転車を停める。
カミカゼは神妙な表情をして、咳払いをひとつ。
「君は…」
カミカゼは話し出す。
彼女と町を天秤にかけたら、どうする?
そんな言葉だった。
ウゲツは瞬間言葉が理解できなかった。
「この町の土地の所有を主張している国が」
「くに?」
「そう、国が、彼女を欲しているという、情報だよ」
「彼女…ネココを?」
「そうだ」
カミカゼはうなずく。
「彼女を国に渡して、町を守るか…」
「いやだ」
「そう言うと思ったよ。老頭もそれは見越している」
「だったら…」
「老頭は、国に彼女を渡してから、力ずくで取り戻そうと考えている」
カミカゼが淡々と告げる。
「力ずくで?」
そんなことができるんだろうかと、ウゲツは疑問を抱く。
それより何より、少しでもネココと離れているのは、
本能みたいなものが嫌だと言い出す。
「チャイが今情報を集めてくれている」
「老頭のチャイが?」
「情報筋を明らかにしないけれど、信じるに値するはずだ」
カミカゼは、そう信じたいと言いたげな顔をする。
「国は天狼星の町を壊してでも、彼女を手に入れようとするはずだ」
「ネココは、どうして」
「チャイはそのあたりのことは書類にしなかった。俺もまだわからない」
「……ネココは」
「近いうちに、国の先遣部隊が来るという情報までは入っている」
「近いんですか?」
カミカゼはうなずく。
ウゲツは頭を振った。
「いやです、俺…」
ウゲツは泣き出しそうな気分になった。
国という大きなもの。
老頭というもの、カミカゼという役人。
どれに対してもウゲツは戦えるほど強くない。
「ウゲツ」
振り返るとネココが、不安そうな目で見ている。
強く、ならなくちゃ。
ウゲツは糸目の中に決意を点らせる。