頭を洗う
コビトは散髪屋のフクロと出会った。
コビトはもう数年、そんな店に行ったことがない。
髪なんてうっとおしくなったら自分でばっさり。
どうせ見る奴なんていないとコビトは思っている。
電波がおかしくなったり、人身御供差し出したりと、
そんな噂が飛び交っている中、コビトは粥を食べに来ていたフクロに出会った。
フクロは、粥を食べながら、しきりにコビトの方に目をやる。
コビトは基本、他人が嫌いだ。
ぎょろりとした目でにらんで、
「じろじろ見るな!」
と、怒鳴った。
フクロは一瞬ひるんだが、すぐさまかえす。
「頭洗ったことありますか?それとその髪、あーあー、ひどいなぁ」
言い出したらフクロは止まらない。
コビトは、何だこいつという顔になり、
フクロはつかつかと歩み寄って、コビトの髪の毛質を見る。
「切り口もひどいですね。噂に聞いていましたけど、コビトさんでしょ?」
「おう、俺がコビトだ」
「頭洗いましょう。さっぱりしますよ」
ひげ面のフクロがにやりと笑う。
コビトが今度はひるむ番だ。
「金ならねぇぞ」
「なくていいんです。まぁ、洗いましょうそうしましょう」
フクロはそういうと、コビトを片手でひょいと担いで、
愉快そうにホホエミの粥屋を後にする。
あとには、
「はーなーせー」
という、コビトの抵抗のあとがちょっとだけ響いて路地に消える。
フクロはコビトの頭を洗う。
コビトはなんだかわからないけれど、
頭というものを、疑わずに預けられるというのは、
それはとてもいいことなんじゃないかと思う。
余計なものが落ちていく気がするし、
生まれ変わるような気さえする。
涙があふれるのがわかる。
コビトは感動している自分を感じる。
頭が、きれいになっている。
洗われているその行為で、きれいになっているんだと。
フクロは用意してきた噂の数々を、口に出そうとして、やめた。
コビトは安らかに眠っている。
フクロは満足する。
ぴりぴりしたこの状態の中、こうして安らげること。
それがフクロなりの、この町でのあり方だと思う。