責任


フウセンは電波局で休んでいた。
フウセンが担当している電波局だから、
離れるわけにはいかない。
でも、定期的に休みはとらなければいけない。
休みを取れといってきたのは、皮肉なことによく走り回っているカミカゼだ。

あれはずいぶん前のこと。
着任した電波局で責任に押しつぶされそうになっているとき。
問題があってからでは遅いと、
フウセンがありとあらゆる可能性を模索していたとき。
何が起きても対処できるようにと、
フウセンはがんばっていた。
それを見ていたカミカゼがいったものだった。
「少し休め。ちょっとなら俺が見てやる」
フウセンは大いに混乱した。
他の人に任せられるものじゃないと。
フウセン独自の機器もかなり導入していると、訴えた。
カミカゼは困ったような顔をしたが、
「いざというとき倒れられるのが一番きついからな」
「僕はそんなこと…」
フウセンは反論しようとする。
「まずは粥を食べてこい。それから、布団かぶってそこに横になれ」
「僕には責任が!」
「大きな事態に備えての小さな休みだ。そういう癖を付けろ」
カミカゼは有無を言わせない。
フウセンは、その雰囲気に飲み込まれるように、結局うなずいた。

それから、フウセンはちょっとだけ休む癖をつけた。
休むというのはいいことらしい。
全部休んでいては責任も何もないけれど、
休むから、がんばれるとフウセンは感じる。

フウセンは、ちりっとなにかを感じて、起き上がった。
「電波かな」
フウセンはぼんやりした頭を、切り替える気分になる。
呼吸をして、機器に向き直る。
電波の調節をする。
合法電波も何かゆがんでいるような気がする。
国がゆがめている、という噂も、粥屋で聞いた。
外に出なければ聞き得なかった情報だ。
国は大きなもの。
電波をゆがめるなんて簡単なのだろう。
フウセンはそう思うけれど。
「この町の電波は僕が握ってる」
フウセンは言い聞かせ、一人うなずく。
責任を果たすのは、いつだって元気でないとできない。
カミカゼはそう伝えたかったのかもしれない。


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