その暇もない
ホホエミはいつものように粥屋を営業している。
住民の唯一の食ということ。
ホホエミはそれを守りたいといつも願う。
それなのに、最近粥屋に来ない住民が、何人かいること。
それはホホエミを不安にさせる。
この町の住民は、食に対して頓着しない。
食べないという選択肢もあるのかもしれない。
けれど、生きているということ、おいしいということ、
人であるということを、ホホエミは忘れて欲しくないと、強く願う。
カミカゼが粥屋の近くを走り抜けていく。
磁転車が走り抜けていく。
止まって欲しいとホホエミは思うけれど、
そういう事態ではないのかもしれない。
中心からチャイが交渉に出るような噂を聞いた。
老頭が交渉に出るということ。
それは、とても大きな事態になっている。
ホホエミの想像する限り、それ以上に、とてもとても大きなこと。
噂では国が絡んでいるという。
ホホエミは見当もつかない。
粥を食べる暇もない。
では、みんな何のために、何が突き動かしているんだろう。
電波だろうか。
電機や磁気で動いていたら、
それは機械となんらかわりがないよと、ホホエミは思う。
お粥を食べてもらいたい。
そして、おいしいといってもらいたい。
「粥をくれないか」
ホホエミが自分の考えにふけっていると、誰かが声をかけてきた。
見れば、老頭のチャイだ。
ホホエミはいつもの笑顔に戻り、粥を盛り付ける。
チャイはいつもの達観したような顔を崩さない。
何かを諦めているような、わかっているような。
「どうぞ」
ホホエミが粥を置くと、チャイはゆっくりと口に運ぶ。
「……人であるということはいいことだな」
チャイがつぶやく。
ホホエミは唐突のことでよくわからなかったが、
「おいしいということだよ」
チャイはそういい、珍しい笑みをちょっと浮かべた。
そういうことを忘れて欲しくなかった。
ホホエミは、清いもので内側が満たされるような、そういう感じを持った。
だからわたし達は人なのだ。