振り下ろす
ハンマーは、槌を振り下ろす。
石の塊に向けて、ためらいなく。
そこから化石を掘り出すために、ためらいなく。
乾いた音が響き、
天狼星の町では珍しく、風の入る一番下の階層で、
ハンマーはいつも槌を振るっている。
ここ数日カタナという奇妙な男がいることはいるが、
ハンマーはあまり気にしない。
カタナもあまり気にしていないようだ。
振り下ろされる槌は、石を砕き、化石を取り出す。
オトギはなんと言っていただろう。
「卑しい発掘屋」
ハンマーはポツリとつぶやく。
あいつがそんなことを言っていたなぁという程度で。
ハンマーがまた発掘に没頭しようとすると、
「卑しいのか?」
と、低い声がかかった。
他に人はいないから、カタナだろうとは思ったが、
しゃべると思っていなかった。
「ええ、何も見つけられない発掘屋、だそうです」
「見つけているではないか」
「え?ああ、化石ですか?」
「そうだ」
カタナはうなずく。
ハンマーは少し困ってしまう。
言葉にするのは難しいけれど、
風を掘ったら空気があるということくらい、
ハンマーにとっては自然に、石の中に電気を宿した化石があるのだ。
それをうまく言葉にできなくて、
ハンマーは手を止めないけれど、もごもごしてしまう。
「卑しくなどない」
カタナは言う。
「どうでしょう?誰かが尊ければ誰かが卑しい。そういう程度ですよ」
「そういうものか」
「その程度です」
ハンマーは自分で言ってうなずく。
「でも」
ハンマーはちょっとだけ、訂正を入れたくなる。
カタナがこちらを向いたのがわかったが、ハンマーは手を止めない。
乾いた音が響く。
「国と比べて、この町が卑しいとは、ぜんぜん思ってませんから」
ハンマーがそういうと、カタナが笑ったのがわかった。
「誇り高き町の発掘屋だ。お前はとても面白い」
カタナは面白そうに、しかし嘲りをまったくこめない笑いをする。
「そろそろ、老頭がくる。護衛には俺がつく」
少しだけ、剣呑な気配を感じる。
ハンマーはそれでも視線をそらさずに槌を振り下ろす。
まぁ、何が起きてもハンマーはここで槌を振り下ろすだけだ。
それだけと思う。