交渉


老頭のチャイが、天狼星の町をおりて、
ハンマーとカタナのいるところにやってくる。
従ってくる、少女。
名前をネココという。
カタナは彼らの護衛につく。

天狼星の町の外は、
見渡す限りではないが、荒野というものに近い。
灰色の起伏があり、植物は少ない。
適度な距離に戦艦ミノカサゴがいる。
カタナは見えるが、ミノカサゴと町の間あたりに、
国の兵士が陣取っている。
あそこで交渉をする気なのだろう。

カタナは気配を張り詰める。
チャイが歩き出す。
ネココが続く。
守るようにカタナが歩く。
彼らは何も話さない。
ぴりぴりした気配だけが伝わってくる。

場にたどりつくと、そこには、
色つき眼鏡の軍人と、その部下らしい男。
周りには一般兵。武器を構えている。
交渉じゃないだろうとカタナは思う。
これは、明らかに脅しだ。

軍人は名前をサカナと名乗り、
部下はオトギと名乗る。
交渉を始めようとサカナは言い、オトギが歩み寄ってくる。
カタナは戦艦の機械音を感じ取る。
なるほど、取る物取ったら町を壊す気かと悟る。
カタナはチャイをちらりと見る。
チャイも視線だけくれる。

鍔鳴り。
そして、オトギの首に、カタナの刀。

「照準をはずせ、馬鹿な軍人ども」
カタナが怒鳴る。
「さもなくば、お前らすべての首がこの原に並ぶぞ」

カタナは、殺気を解放する。
一般兵をおびえさせるには、十分すぎるそれを。
カタナが、手始めにオトギの首を落とそうと思ったそのとき、
カタナの装束を誰かが握った。
振り向けばネココだ。
殺気にもひるまずにカタナを見据えている。

「この娘が狙いなのだろう。町には手を出すな」
チャイが言う。
サカナはうなずく。
カタナはオトギに当てていた刀を鞘に戻す。
ネココは、彼女はオトギの手をとる。

「いいのか?」
カタナは問いかけてみる。
その問いに、
ネココは何かから解放されたような、不敵な笑みを浮かべて返した。

オトギはネココの手をとり、
交渉はこれで終わった。
町は救われたはずだった。


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