作品


カミカゼは走る。
老頭の決定を受けて。
何もかもを予測しているような、老頭の、
とりわけ、チャイの言動が気にかからないわけではない。
疑うのとはまた違う、奇妙な気がかり。
それも巻き込んでカミカゼは走る。
今日もなんだか電波がぴりぴりする気がする。
フウセンはこの電波の中、大丈夫だろうか。
カミカゼは動ける範囲すべての人の心配を連鎖的にする。
その中で、優先順位を無理やりつけて、カミカゼは走る。
そうでなければ、この天狼星の町が動かないことをカミカゼは良く知っている。

だから、チャイに対する気がかりは、ひとまず置いておく。

カミカゼはギムレットの元を訪れ、
ソロバンの構築式待ちだと聞く。
ひとつのオウムガイがそこにある。
かなり大きい。
「でかいな」
思わずカミカゼはつぶやく。
「それでも二人は限界を超えるだろうな」
「これでもか?」
「一人なら飛べる。二人なら落ちていくだけだ」
ギムレットはちょっとだけ説明する。
この電気の集中している天狼星の町から離れると、
オウムガイの出力(要は飛ぶ力だと付け加える)が、
急激に落ちていく。一人なら、それでも飛べる。
二人以上はまず落ちると思っていたほうがいい。
「これで彼女を取り戻すんじゃないのか?」
カミカゼは尋ねる。
「電気だけなら、まず無理だろうな。取り戻しても墜落する」
「だったら」
「これに乗るのはウゲツだ、そうだろ?」
「ああ、磁気掃除人の……」
「あいつは、一級永久磁石を持っているというが、どうなんだ?」
「俺はまだ現物を確認していない」
カミカゼは正直に言う。
ギムレットは、うなずく。
「いろいろ未知数か。それはそれでいい」
面白そうに、つまらなそうに。

「とりあえず、オウムガイは大体出来上がっている」
ギムレットは、渦を描いている電装の乗り物をちょっとはじく。
寸法としては、磁転車に乗るのと感覚は変わらない。
動力がある内蔵されているので、磁転車よりは少し大きい渦の貝。
化石によくあるオウムガイの電装。
これがウゲツを載せて空を飛ぶという。

チャイは出来上がることもすべて見越していた。
ウゲツがネココを取り返しに行くといっていたことも、
すべてお見通しなんだろうか。
何かが笑っている気がする。
気のせいと思うには、気がかりだった。


次へ

前へ

インデックスへ戻る