宿る悪鬼
みんながぴりぴりしつつも、眠りを得る夜。
ウゲツは部屋で寝床に腰掛けていた。
あふれそうな、爆発しそうな感覚。
どうも凶暴さを増してきた気がする。
電波の所為だろうか。あるいは、ネココがいない所為だろうか。
ウゲツにはわからない。
扉を叩く音がする。
「誰ですか?」
ウゲツは問う。
「チャイだ。そろそろ行くぞ、ウゲツ君」
ウゲツは覚悟を決める。
覚悟を決める頭の端っこで、
どうしても弱気になるのを認めざるを得ない。
それでも、ウゲツは扉を開ける。
チャイがそこに、いる。
「失礼」
チャイと短くそう言うと、ウゲツの頭に片手を乗せる。
……聞こえるか?ウゲツ。
声が突然聞こえたので、ウゲツはびっくりした。
「声のことは黙っていてくれ。きっとミノカサゴ攻略に役に立つはずだ」
ウゲツはうなずく。
そうするしかない。
……サクラっていうんだ。聞いたことあるかい?
ウゲツはどう答えていいかわからない。
この声を無視することもできないのだろう。
ウゲツは言葉を考える。
(悪鬼サクラ、ですか?)
……そう、それさ。この町にとっても悪ならば、国にとっても悪なのさ。
(ならばなぜ)
……悪は使いようだよ、ウゲツ。電鬼がそうであるように、ね。
ウゲツはよくわからない。
悪とはよくないものだと、この町では教えられてきた。
考えを読んで、サクラが話しかける。
……確かにサクラは悪だ。悪鬼だ。
(僕をたぶらかしたりしますか?)
……それはない。ウゲツはすでに、すごいものを雇っている。
(雇って?)
ウゲツが雇った記憶は、ネココだけ。
あとにも先にも彼女一人。
すごかったのだろうか?
きらきらきれいな笑顔しか思い出せないし。
雇った以上に、お嫁さんにもしたかったなんて、と、
考えてから気がつく、サクラは考えを読むんだったか。
サクラはウゲツの頭の中で笑っている。
……さぁ、ギムレットのところに行こう。オウムガイに乗って、お嫁さんを取り返しに。
ウゲツはうなずく。
お嫁さんにしたいネココのこと。
いずれはわかることなんだから、
恥ずかしがっていてもしょうがない。
ウゲツは部屋を出る。
悪鬼を宿して。