健全の終わりに


チャイを先頭にして、ウゲツが続く。
頭の中には、サクラがいる。
……健全な電波浴びてるから、ウゲツは健全だね。
(どういうことですか?)
ウゲツは頭の中で問い返す。
……どうもこうもないさ。ウゲツは健全。でも。
(でも)
……空には電波が届きにくい、聞いたことはあるか?
(一応)
ウゲツはハコ先生の来訪を思い出して見せる。
サクラは大体理解したようだ。

……この町に、違法はあるけれど人道に外れたことがない。
(よくわからないです)
……それは健全な電波が町を埋めているってことだ。
(違法のものもあるって、聞きますけど)
……ひっくるめても健全なんだ。まだ、ね。
(まだ?)
……電波の影響を受けていない空は、ウゲツの内面を明かしていくはずだ。
内面?と、ウゲツは思う。
それは、ウゲツのあふれそうなこの感じが、本当にあふれてしまうことだろうか。
あふれたらどうなってしまうだろうか。
ウゲツはそこまで思って、
(なるようになるしかないんです)
と、サクラに告げる。
サクラは意外そうにちょっとだけ感嘆の声を漏らして、それから黙った。

「何か話していたか?」
前を行くチャイが、振り返る。
「いいえ、なんでもないです」
ウゲツは糸目を愛想よく見えるように見せる。
細い目は便利だ。
笑っているように見える。
ネココにもちゃんと笑っているように見えていただろうか。

空をいったら、ネココに再び会えるときに、
そのときに、嫌われるウゲツが表に出てきたら、ちょっと困ると、ウゲツは思う。
……それもウゲツなんだよ。
サクラはボソッと言ってきた。
それもそうだとウゲツは思いなおした。

チャイが古びた扉を開く。
ギムレットの店だということを、ウゲツはなんとなく知っている。
ここに磁気を買ってもらおうと思ったこともあった。
でも、ネココに嫌われるんじゃないかと思うとできなかった。

「はいってこいよ。バカヤロウども」
ギムレットの低い声がかかる。
扉から渦を巻いた機械が見える。
「これがオウムガイだ。結局お前がいくんだろう、ウゲツ」
ウゲツはうなずき、オウムガイに近寄る。
それはまるで、化石から生き返った生き物のような気がした。

「さて、ちょっと派手に行くぜ」
ギムレットは物騒なことをいった。


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