出撃の夜
「まったく……」
タケトリが困ったように吐き出す。
クロックはその様子を、とても珍しいものだと思う。
穏やかなタケトリが、こんな反応をするなんて。
タケトリが、心底困っているのがよくわかる。
「許可は私が出した。結局闇電装技師だから、手段は選ばんと思うが」
「チャイといい、あなたといい、どうしてこんなことを」
タケトリはまた、ため息をつく。
クロックは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、大事の前の小事さ。国から何か取り戻すなら、というわけだ」
クロックはそう言うが、果たして許可を出した相手のギムレットが、
穏やかに済ませてくれるとは思わない。
クロックとしてもため息をつきたい気分だが、
そこは、タケトリに役目を任せておく。
チャイもだいぶ暴走してくれた。
国に少女を引き渡し、そして取り返す。
タケトリなんかが真っ先に反対しそうな方法。
その方法で、天狼星の町を守らんとしている。
一歩間違えば、町は戦艦ミノカサゴで吹き飛ばされてしまうだろう。
それでも、チャイは反旗を翻す。
それならばと、クロックもあることをギムレットに許可した。
それは。
天狼星の町に、揺れ。
大きく、爆発音。
「やったな」
クロックはつぶやく。
タケトリはそれを聞き、
「まったく……」
と、心底困ったようにため息。
「大体、オウムガイを空に飛ばせるのに、壁を爆発させる許可なんて」
「そんなにでかい穴は開かないはずだ」
「でも」
「天井に穴が開くよりはいいだろう」
「まったく……」
タケトリは言葉が続けられない。
クロックは想像する。
天狼星の町の壁に穴があき、
煙の残るそこから、空へと飛び出していく、オウムガイ。
大して大きなものじゃない。
一人乗りがせいぜいのもの。
空の戦艦ミノカサゴに向かって、
夜の空をオウムガイは飛ぶ。
それには、ウゲツ少年が乗っているはずだ。
電装のオウムガイは、
電気の出力で空を飛ぶ。
「さて、他の連中にちょっと指示を出してくるよ」
クロックはその場を離れる。
空に電気を届ける。クロックの次の仕事はそれだ。