この空まで


オトギは、戦艦ミノカサゴの「目」にいた。
操縦席に当たるところよりも上、二つの大きな窓だ。
その片方に、オトギはいる。
見下ろせば闇、見上げれば、星。
サカナ大佐は天狼星の町に一日の猶予を与えた。
その間に……何かしてくれないだろうかとオトギは願ってしまう。
国が、電波の集中している天狼星の町に、
電鬼の種となる、一級永久磁石を投げ入れて、
兵器となる電鬼を作り上げた。
それをまた奪おうとしていることが、この上もなくばかばかしい。
そして、一級永久磁石がなくなって、
兵器として不完全なままの電鬼を戦艦に居座らせているのも、ばかばかしい。
一体国は何がしたいんだ。
サカナ大佐は国の偉い方の言葉をあまり伝えてくれない。
オトギが以前そのあたりを訊ねたら、
「あんまり愉快じゃない。あいつらは何したいのか、わかってないのさ」
と、大きな丸い目を少しだけ細めて答えたものだった。

この空まで、何かがやってこないものだろうか。
オトギはそんなことを思う。
何をしたいのか、わからない国というものに、
何かをぶち込む何か。
ひっくり返すもの、揺さぶるもの、そして何より、疾走するもの。
闇を切り裂き、鮮烈な印象を脳に焼き付けるもの。
オトギはそれを望む。

オトギが再び見下ろせば、
下に星が見えた気がした。
あれは星か。明かりではないのか。
思ったときには、もう、見失っていた。
「来るか」
オトギは知らずつぶやいていた。

上に報告はしない。
ただ、疾走する痛みが欲しいとオトギは思う。
痛みの快楽。
それを痛快というんだと教えてくれたのは、サカナ大佐だったか。
国とは違う、小さな天狼星の町の、
小さな星が切り裂く感じ。
オトギは少しだけさびしくも思う。
いつだって、先陣切って痛みを引き受けていたのは自分だったのにと。

さぁ、どうなる。
痛みを伴う予感を楽しみに思えたのは、
オトギにとって初めての経験だった。

静かな夜。
戦艦ミノカサゴは、空に浮かんでいる。
オトギはしばらく闇を見ていたが、やがてその場を離れた。


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